岐阜新聞 映画部

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戦後の闇市を舞台に、戦争のトラウマを描いた反戦映画

2024年01月15日

ほかげ

©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

【出演】趣里/塚尾桜雅 河野宏紀/利重剛、大森立嗣/森山未來
【監督・脚本・撮影・編集】塚本晋也

戦後ものうのうと生きる、理不尽極まりない上官

戦後の闇市は、『酔いどれ天使』や『仁義なき戦い』で描かれたようなヤクザや愚連隊が跋扈するダークだがエネルギッシュなイメージもあるが、『ほかげ』に登場するような身体を売る女や戦災孤児、復員兵や傷痍軍人も当然いた。

塚本晋也監督は、フィリピン戦線・レイテ島での戦いを舞台にした『野火』(2015)では、戦中の日本陸軍の兵隊が栄養失調状態におかれ次第に鬼畜と化していく姿を描いたが、本作では、戦争そのものが終わった後でも、人々の心に深い傷、すなわちトラウマを残すことの残酷さ、未来が見えない不安を描いている。

前半は、夫と息子を亡くし身体を売りながら、焼け残った小さな居酒屋を営む女(趣里)と、元教師の復員兵(河野宏紀)、眼光鋭い戦争孤児(塚尾桜雅)が肩を寄せ合って一緒に暮らす様子だ。

戦争が終わった解放感も晴れやかな明るさも全く無く、3人とも戦争が終わった安堵よりも、生きていくのが精一杯、幸せに向かっていくスタート感はゼロだ。

後半は、片腕が不自由な傷痍軍人(森山未來)が登場する。拳銃を隠し持っていた少年と同行し元上官のもとへ行く。

軍隊時代、その上官の命令によって捕虜を殺させられ、あげくに従わなかった親友も殺させられる。理不尽極まりない事をやらせた上官は「お国のために死ぬ」ことはなく、戦後ものうのうと生きている。

傷痍軍人は、死んでいった同僚たちに代わってこの上司に責任を取らせる。少年の拳銃を使うが決して殺したりはせず、痛みを与えることで一生罪を背負わせるのだ。

映画の軸となるのは少年の目線だ。目のくりっとした可愛い8歳の少年は『チャップリンのキッド』のように、したたかに金や食料を調達してくる。戦争に加担した大人たちを欺き、叩かれても蹴られても何度でも立ち上がる。この少年がどのように育っていくのかはわからないが、希望の一筋は見えたような気がする。反戦映画の傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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