岐阜新聞 映画部

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"ロイヤルオモイヤル" プロジェクト大林宣彦監督作品35ミリフィルム上映第2弾

2023年12月27日

ふたり

©️大林宣彦事務所

【出演】石田ひかり、中嶋朋子、尾美としのり、柴山智加、中江有里、島崎和歌子、増田恵子、岸部一徳、富司純子
【監督】大林宣彦

1991年春に公開された『ふたり』は、大林宣彦監督作品では、『HOUSE ハウス』から数えてちょうど20本目の作品で、『転校生』(1982年)、『時をかける少女』(1983年)、『さびしんぼう』(1985年)からなる "尾道3部作" を受け継ぐ、"新尾道3部作" の初作となる。

原作は赤川次郎の同名小説で、事故で亡くなってしまった姉が成長していく妹のもとに、時折、現れて、窮地を救ったり、アドバイスしたり、四方山話にくれたりして、妹を見守るというファンタジーである。

高校生になった実加(石田ひかり)は、伸びやかに成長したが、何かと姉の千津子(中嶋朋子)と比較される。学校一の秀才で、ピアノを弾いても、マラソン大会に出ても、常に衆目を集める存在だった姉に比べれば、目立たない、マイペースな性分だった。"グズでマヌケ" を自認しているし、部屋はだらしなく散らかし放題。でも、空想することが大好きで、将来は小説家になりたいと夢見ている。

そんな実加にも増して、両親が抱く娘(姉)の不在感は重く、特に母の治子(富司純子)は、精神的な病み=闇を抱えていた。

父の雄一(岸部一徳)は、そんな妻と娘を優しく見守ってはいるのだけれど…。

今回、『ふたり』は、"ロイヤル オモイヤル" プロジェクトの大林宣彦監督作品35ミリフィルム上映の第2弾として上映された。初公開の91(昭和61)年以来、32年ぶりの再見となった。

巻頭、実加と雄一の父娘が、家から尾道の駅へ向かうシークエンスがある。ふたりを追った映像は自然に尾道の町を映し出す。坂道と階段が続く迷路のような独特の道を親子は戯れ進む。新シリーズによる再訪を慈しむかのように。

実加の学校生活は楽しく華やかだったり、ちょっと悩ましかったりで、様々なエピソードが沢山盛り込まれている。

初公開時の感想を正直に言えば、話の展開には間伸びがあり、いささか長い(上映時間150分)という印象だった。

上映後に行われたトークショーのゲストは、大林監督のひとり娘の千茱萸さんと主演の石田ひかりさんだった。お2人が口を揃えたのが、監督の溢れ出る演出の創造のアイデアで、台詞は度々変更され、撮影の段取りも変更された。それは千茱萸さん言うところの "足し算の演出" 。それは更に加速して "掛け算の演出" に進化して行く。

あの時、寄り道と思ったエピソードの付け足しが、後に回収されていく、魔法のような巧みな演出。初見時の感想は見事に覆った?

これは余談だが、ロイヤル劇場での鑑賞の際、上映開始の直前に、私の座った席の前列に、千茱萸さんと石田ひかりさんが座った。直ぐ斜め前にこれから上映される映画の主演女優が居る…稀な体験。

映画のエンドロール、劇中でも何度か使われた主題歌の「草の想い」が流れる。それを歌うのは作詞も担当した大林宣彦監督。これはちょっと卑怯。図らずも号泣してしまった。

気がつけば、前席の石田ひかりさんも肩を震わせてハンカチで目もとをおさえている。

特別な映画鑑賞体験。大林監督がフィルムに込めた思いが伝わる。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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