岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

不寛容な世の中に対する警鐘、社会派映画の傑作

2023年12月26日

©2023『月』製作委員会

【出演】宮沢りえ、磯村勇斗、長井恵里、大塚ヒロタ、笠原秀幸、板谷由夏、モロ師岡、鶴見辰吾、原日出子/高畑淳子、二階堂ふみ/オダギリジョー
【監督・脚本】石井裕也

さとくんはサイコパスか?ごく平凡な庶民か?

私は普段、精神障害の方の就労支援をしているが、そのやり方が虐待に該当しないか、差別的になっていないか、「可哀そうな人」などとの優越感を持っていないかなど、人間の尊厳を考えた支援になっているか常に考えているつもりだ。

『月』は2度観たが、1度目を観た後のインパクトは衝撃的であった。「障害者のことをわかっているつもりの偽善者ではないか?」「自分より下がいると安心したいだけではないか?」など、深層心理に踏み込んで、隠している感情があぶり出されていうような気がして恐ろしさを覚えた。

2度目は、石井裕也監督をお招きしてのCINEX映画塾で観たが、今度はストーリーを追いつつ確かめながら観られたのと、石井監督の製作意図や演出方針に対する誠実なる説明で、腑に落ちたことは大きい。

本作は、避けて通ってきた問題や、見ないふりをして無かったことにしてきた社会の偽善に対して、我々はどうしたらいいのかを提示した、社会派映画の傑作である。

障害者として生まれた息子を3歳の時に亡くした、堂島昌平(オダギリジョー)と洋子(宮沢りえ)の夫妻。その喪失感から中々抜け出せないことが手に取るようにわかる。そこに宿った一粒種。高齢出産ということもあり、もしかしたらまた障害児かもしれないという不安が先に来てしまう。この葛藤は当事者にしかわからない苦しみだ。

一方で、優性思想にとりつかれ「ココロがないのは人ではない」と19人を殺したさとくん(磯村勇人)の詭弁に対して、どう対処するのか?「何の罪もない、懸命に生きている人を殺す権利など無い!」というだけで、対抗できるのか?さとくんはサイコパスなのか?

ナチスのホロコーストを考えると、人間の恐ろしさにいきついてしまう。ごく平凡な庶民が、何かに取り憑かれると平気で人を殺してきたのだ。

不寛容な世の中に対する警鐘ともいえる映画。目を背けず向き合いたい映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (7)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る