岐阜新聞 映画部

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重度障害者の人権と介護の問題を描く傑作

2023年12月26日

©2023『月』製作委員会

【出演】宮沢りえ、磯村勇斗、長井恵里、大塚ヒロタ、笠原秀幸、板谷由夏、モロ師岡、鶴見辰吾、原日出子/高畑淳子、二階堂ふみ/オダギリジョー
【監督・脚本】石井裕也

きれいごとでない描写と様々な重い問いかけ

石井裕也監督の「月」は、現代社会の闇に光を当て、重度障害者の人権と介護の難しい問題をきれいごとにせず描いた傑作である。

原作は2016年に津久井やまゆり園で起きた障害者殺傷事件をモチーフにした辺見庸の同名小説だが、被害者と加害者のふたりの視点で書かれた原作をかなり改変している。

映画「月」の主人公は、話題になり文芸賞も受賞したデビュー作のあと書けなくなり、重度障害者施設で働くことになる小説家・堂島洋子(宮沢りえ)。彼女の目を通して施設の実態が描かれる。

彼女は障害により寝たきりの子を亡くした過去を引きずっていて、再度の妊娠で産むべきか中絶すべきか思い悩んでいる。

介護施設にいる洋子と同じ日に生まれた寝たきりの障害者・きーちゃん。洋子の小説をきれいごとだと非難する小説家を目指す同僚・陽子(二階堂ふみ)。そして、重度の障害者を介護する日々から心のない者は人間とは言えないという思いを募らせる同僚・さとくん(磯村勇斗)。彼らとの出会いが洋子の心を乱れさせる。

とりわけ印象的なのが、洋子が心がない重度障害者の殺害計画を仄めかすさとくんと対峙するシーン。さとくんの考えを全面的に否定する洋子の前に、悪意のもうひとりの洋子を登場させ自問自答させる演出が素晴らしい。

宮沢りえも二階堂ふみも好演だが、磯村勇斗の演技がひと際印象に残る。そして洋子の夫で、無名のストップモーション・アニメ作家である昌平(オダギリジョー)の心優しきキャラクターに救われる。

さとくんが通っているキックボクシング・ジムのシーンで、彼が刺青をしていることが明らかになる。「月」上映後の石井裕也監督のトークイベントに於ける質疑応答で知ったのだが、津久井やまゆり園事件の犯人は実際刺青をしていたそうだ。しかし石井監督はそれを描くかどうかは迷ったらしい。私としては、さとくんを特殊な人間と解釈される描写は避けた方が良かったように思う。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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