岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

弱さや強がりが垣間見られる異色のドキュメンタリー

2023年12月11日

パトリシア・ハイスミスに恋して

© 2022 Ensemble Film / Lichtblick Film

【出演】マリジェーン・ミーカー、モニーク・ビュフェ、タベア・ブルーメンシャイン、ジュディ・コーツ、コートニー・コーツ、ダン・コーツ
【監督・脚本】エヴァ・ヴィティヤ ナレーション:グウェンドリン・クリスティー

© Courtesy Family Archives © RolfTietgens_CourtesyKeithDeLellis

私がアラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』(1960)を名画座で観たのは大学1年の時で、当時の世界的トップスターの名だたる名作は、ニーノ・ロータの切ない主題歌とも相まって生涯忘れられない映画となった。

何に感動したかと言えば、貧しい青年のアラン・ドロンの、自由を謳歌して派手に遊ぶ金持ちの友人モーリス・ロネへの羨望と嫉妬を、言うに言えない気持ちとして描いていた点だ。敬愛する淀川長治さんが「2人の関係性はホモセクシャルだ」と読み取っていたのは有名だが、私にはそこまで踏み込んでいるとは思えなかった。

何度も繰り返し名画座で観たが、原作のパトリシア・ハイスミス(1921-1995)を意識することはなかった。当時海外ミステリー小説はよく読んでいたが、あまり注目されておらずそもそも翻訳本も少なかった。

本作はパトリシア・ハイスミスの生き様に焦点を当て、隠れた部分にも踏み込んだ異色のドキュメンタリーだ。

晩年の彼女の写真を見ると、腕を組みこちらをギロッと睨んでいて「レズビアンですけど、何か?」といっているような強い女性に見えるが、映画を見ていると決してそんなことはなく、むしろ自分の弱さを押し殺し、強さを振る舞っているように感じる。

人妻と女性店員の恋愛という、彼女の著作で唯一の同性愛を描いた「キャロル」(1952)は、クレア・モーガン名義で出されているし、自分の性癖をひた隠しレズビアンを恥じ異性愛になろうと努力している。

その裏返しか女性に対して厳しく、しまいには黒人やユダヤ人差別を公然と言うようになる。

誰からも好かれる人格者からはほど遠い人で、弱い部分を見せないように強がりをいう人物だったのだろう。でも本当は弱かったなんて人間的でいいし可愛らしい。

彼女のいいところや功績だけをつないだ伝記映画になっていないのは、むしろ親近感がわいてくるが、草葉の陰で怒ってないかなあ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

89%
  • 観たい! (8)
  • 検討する (1)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る