岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

セリフは一切なくモノクローム、これぞ作家の映画だ

2023年12月08日

映画(窒息)

©2021 有限会社 DMC’S

【出演】和田光沙、飛葉大樹、仁科貴、田嶋悠理、仁木紘、寺田農
【監督・脚本】長尾元

パンフレットを含めて一つの作品だ

本作の監督・長尾元さんの長編デビュー作『いつかのふたり』(2019)は、第35回CINEX映画塾のお題でもちろんトークショーも開催された。私は別の映画の会の旅行と重なり残念ながら参加してないが、映画評は書いている。

そのデビュー作は、観た直後は整理しきれず粗ばっかり気になったが、登場人物たちの行動を個性だと捉えると「ちょっと面倒くさいキャラの母娘の成長譚を描いた、初々しい映画」だと観た。

その長尾監督の最新作はモノクロームの上、セリフは一切無しという実験映画だ。新藤兼人監督の『裸の島』(1960)のような無言映画ではなく、無声映画のようにセリフを字幕で表わすのでもなく、言葉を発しないという設定だ。

観ていてわかったのだが、映画のタイトルも表示されないどころか、キャスト・スタッフ等のクレジットも無い。映画のラストシーンが終わるとすぐに場内は明るくなった。なので映画に関わった人を知るためにパンフレットを購入した。それを含めて一つの作品なんだろう。

インディーズの小品にも関わらず、『ウエストサイド物語』や『2001年宇宙の旅』のような大作と同じく映画の冒頭にはオーバチュアが演奏され、最初は暗闇に音楽で始まる。

これらは商業映画でやれるはずも無く、誰にも忖度せずに作れたからである。監督の思うようにやれるなんて幸せであると共に、実力もためされるのだ。

主役の女・おんちゃん(和田光沙)の平穏な日常が、山賊の襲来によって壊される。そのあと女の仕掛けた罠にかかった男(飛葉大樹)と一緒に暮らしねんごろになる。

言葉を無くし表情とボディランゲージだけでの意思表示は、世界どこでも通じる分断の無い世界。劇中で行われている行商人(寺田農)との物々交換は、必要とするものだけ手に入れるという搾取の無い世界だ。

説明は一切ない映画、情報過多の世の中に一石を投じた、これぞ作家の映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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