過去の出来事が原因で巣食う心の闇を描く

今泉力哉監督は、今最も注目される映画作家のひとり。コンスタントに作品を発表し、「愛がなんだ」、「街の上で」、「かそけきサンカヨウ」、「猫は逃げた」、「窓辺にて」、「ちひろさん」など傑作・秀作も多い。

セリフっぽくない自然な会話に聞こえるダイアローグ。そのダイアローグと相乗効果で魅力的な登場人物を造形する見事なキャスティング。人と人との気まずい空気感。人間関係の綾を描いたドラマは今泉力哉作品の真骨頂。

今泉監督の最新作「アンダーカレント」は、余白のある文学的な作品。

原作は豊田徹也の同名の長編コミック。脚本は、「愛がなんだ」の澤井香織と今泉監督の共作。

主人公は家業の銭湯を継いだ関口かなえ（真木よう子）。彼女の夫である悟（永山瑛太）は突然失踪してしまう。そのため一時休業していた銭湯の営業を再開させた直後に、堀と名乗る謎の男（井浦新）が働きたいと訪れ、住み込みで勤務することとなる。

また、かなえの友人（江口のりこ）の紹介で悟の行方の捜索を以来した探偵（リリー・フランキー）も胡散臭い。

謎めいた登場人物が織りなすドラマは、いつもの今泉力哉監督作品より陰影が濃い。そして淡い色合いの静謐な映像が、謎めいたドラマのミステリアスさをより一層際立たせている。

徐々に明らかになる過去の出来事が原因で巣食う登場人物の心の闇。その痛みを観客が共有する事で、人の弱さを愛おしく感じさせる秀作。

余韻のあるラストシーンも秀逸。