岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品ABYSS アビス B! 情熱がほとばしり出ている、自伝的青春映画 2023年10月31日 ABYSS アビス ©2023『ABYSS アビス』製作委員会 【出演】須藤蓮、佐々木ありさ、夏子、松本亮、浦山佳樹、三村和敬、二ノ宮謙太 【監督】須藤蓮 窒息しそうな息苦しさと打開しようのない閉塞感 日本の1960年代~70年代は高度経済成長時代で、会社の業績も労働者の賃金もどんどん上がっていった。労働運動や学生運動が活発でモノを言えば答えが返ってくる時代、真面目に頑張れば人生設計ができる時代であった。 つづく1980年代は安定成長期。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代で、バブルも経験させていただいた私なんかは、ちょっとくたびれていたアメリカやイギリスよりも恵まれていると錯覚していた。 しかし今の日本は、経済で世界を牽引することもなく、格差は広がるばかりで、若者に夢も希望も与えることができない国になってしまった。 27歳の須藤蓮さんが作った『ABYSS』を観ていると、現代の社会の窒息しそうな息苦しさと打開しようのない閉塞感が、映画の中に充満しているのがよくわかる。いまの若者に対して、世界を牽引するような夢のある先端技術を提示できないし、現状の政治を打破するような対抗的潮流も示せていない。 須藤さんはスタイル抜群のイケメンで、俳優としてのみ活動すれば今頃キラキラ映画の主演を務めていたかもしれない。が、自分の思う映画は自分が監督して自分が主演するほかないとばかりに作るなんて、カッコいいにもほどがある。 聞くところによると映画の内容の30%が自伝らしいが、その割合は照れ隠しに違いない。先の見えない中で、理不尽な先輩にはただヘラヘラしてしのぎ、刹那的に女を抱く。 前作『逆光』の尾道、今作『ABYSS 』の南房総。須藤さんが水にこだわっているのがよく分かる。私が思うに、人間の根源、お母さんの羊水なのだ。 あふれ出る熱情が塩梅よく中和され、独り善がりでなく、ほどよく伝わってくる。素晴らしい才能だ。 須藤さんは、俳優として他の監督の映画的にも参加してその演出の技術を盗めばいい。貪欲に吸収してグザヴィエ・ドランみたいな斬新な映画を撮りつづけていただきたい。 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 100% 観たい! (8)検討する (0) 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 2024年04月24日 / ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター 4Kで甦る 憎悪の泥に塗れた官能的な愛の物語 2024年04月24日 / ピアノ・レッスン 4Kデジタルリマスター ジェーン・カンピオン監督の最高傑作、完璧な作品 2024年04月24日 / RED SHOES/レッド・シューズ オーストラリア発バレエ舞台の成長物語 more 2021年12月22日 / 【思い出の映画館】千日前国際シネマ(大阪府) 戦後、難波の映画街で多くの日本映画を送りつづけた 2019年10月30日 / 土浦セントラルシネマズ(茨城県) 日本映画の隆盛から斜陽期まで…長年見続けてきた映画館 2022年07月27日 / 塚口サンサン劇場(兵庫県) 自転車に乗ってエプロン姿で気軽に来れる街の映画館 more
窒息しそうな息苦しさと打開しようのない閉塞感
日本の1960年代~70年代は高度経済成長時代で、会社の業績も労働者の賃金もどんどん上がっていった。労働運動や学生運動が活発でモノを言えば答えが返ってくる時代、真面目に頑張れば人生設計ができる時代であった。
つづく1980年代は安定成長期。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代で、バブルも経験させていただいた私なんかは、ちょっとくたびれていたアメリカやイギリスよりも恵まれていると錯覚していた。
しかし今の日本は、経済で世界を牽引することもなく、格差は広がるばかりで、若者に夢も希望も与えることができない国になってしまった。
27歳の須藤蓮さんが作った『ABYSS』を観ていると、現代の社会の窒息しそうな息苦しさと打開しようのない閉塞感が、映画の中に充満しているのがよくわかる。いまの若者に対して、世界を牽引するような夢のある先端技術を提示できないし、現状の政治を打破するような対抗的潮流も示せていない。
須藤さんはスタイル抜群のイケメンで、俳優としてのみ活動すれば今頃キラキラ映画の主演を務めていたかもしれない。が、自分の思う映画は自分が監督して自分が主演するほかないとばかりに作るなんて、カッコいいにもほどがある。
聞くところによると映画の内容の30%が自伝らしいが、その割合は照れ隠しに違いない。先の見えない中で、理不尽な先輩にはただヘラヘラしてしのぎ、刹那的に女を抱く。
前作『逆光』の尾道、今作『ABYSS 』の南房総。須藤さんが水にこだわっているのがよく分かる。私が思うに、人間の根源、お母さんの羊水なのだ。
あふれ出る熱情が塩梅よく中和され、独り善がりでなく、ほどよく伝わってくる。素晴らしい才能だ。
須藤さんは、俳優として他の監督の映画的にも参加してその演出の技術を盗めばいい。貪欲に吸収してグザヴィエ・ドランみたいな斬新な映画を撮りつづけていただきたい。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。