岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

閉塞感にあらがう恋人たちのラブストーリー

2023年10月31日

ABYSS アビス

©2023『ABYSS アビス』製作委員会

【出演】須藤蓮、佐々木ありさ、夏子、松本亮、浦山佳樹、三村和敬、二ノ宮謙太
【監督】須藤蓮

海の中にある扉を開くための苦心とあがき

溢れる音と光。抱擁する恋人。クラブの喧騒。

渋谷でバーテンのバイトをしている23歳のケイは、”ドンキー“ で喪服を買おうとする世代。向かった葬儀会場が生まれ故郷である事、弔われるのが兄のユウタであることがわかる。

ケイの家族のザクっとした構成や現状は説明され、父親や兄の暴力について触れられるが、その深層は見えてはこない。

冷めた葬儀会場で号泣する女性がいる。ケイはその女性ルミが兄の恋人だったことを知っていて、宿泊先を訪ね、兄の近況を聞き、海で死んだユウタが自死であったことを告げる。

その後、ケイとルミは東京で再会し、次第にその関係を深めていく。

『ABYSS アビス』は、『逆光』(2021/岐阜公開2022年)で監督デビューを果たした、俳優・須藤蓮の監督第2作で、前作に引き続き主役を務めている。

脚本は自身を深く反映しているという。その作業は『逆光』の脚本を手がけた渡辺あやとの共同で行われた。

不明確なケイの状況について。

思い出として語る、父親から受けた暴力、同様に兄からも、「ボコボコにされた」という表現だが、兄のそれは父からの暴力のとばっちりだったと分析されて、葬式であれほどクソ味噌だったユウタの実像は変化していく。

ルミを無理矢理犯すユウタ。それを目撃してしまったケイ。その光景は回想=フラッシュバックとして繰り返されるが、視点は微妙にズレる。

ケイが務めるバーは兄が働いていた店なのだが、そこで敢えて働いている意味が不明瞭で、店長の男から受ける暴力、それに無抵抗なケイの立場も理解に苦しむ。

喫煙ルームならぬ喫煙バス。早朝の公園でのカラスへの餌やり。海の情景、水の感触。いくつかのエピソードが宝石のように輝きを見せるが、物語としては、先行するイメージに押しつぶされてしまい、窮屈な展開になるのが些か勿体ない。呪縛の殻を破る事は出来るだろうか?

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (8)
  • 検討する (0)

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

ページトップへ戻る