岐阜新聞 映画部

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戦争と宗教に翻弄された女の執念と運命を描いた佳作

2018年04月08日

ローズの秘密の頁

©2016 Secret Films Limited

【出演】ルーニー・マーラ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、ジャック・レイナー、テオ・ジェームズ、エリック・バナ
【監督・脚本】ジム・シェリダン

宗派の違いによる価値観を知っておくとより理解が深まる

 子殺しのレッテルを貼られ、40年間精神病院に閉じ込められていた老女ローズ(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)の数奇な人生と、その真実を解き明かしていく愛の物語である。アイルランド映画界を牽引するジム・シェリダン監督は、第二次大戦当時の閉鎖的で保守的だった祖国の規律や風習の中に、性的魅力を溢れさせ自立して生きる若き日のローズ(ルーニー・マーラ)を放り込む。
 ドイツからの空爆が激しくなってきた北アイルランドから中立国のアイルランドへ逃れてきたプロテスタントの彼女は、厳格なカトリック国であるアイルランドの従属的で慎ましやかな女性観からすると、かなり奔放であった。
 この宗派の違いによる価値観を知っておく事は、映画を理解するのに大変重要である。ローズに惹かれるが、最後は彼女を精神病院に送り込むゴーント(テオ・ジェームズ)はカトリック「神父」であり、英国空軍に志願したため反逆者としてIRA(カトリック)につけ狙われるローズの恋人マイケル(ジャック・レイナー)はプロテスタントだ。2人は「牧師」(プロテスタント)の元で結婚する。
 離婚や人工中絶すらままならなかったカトリックで、子殺しなど最も罪深い事である。彼女は必死に「赤ん坊を殺してない」と訴えるのだが誰も耳を貸さない。カトリック系の精神病院では彼女を理解しようとする者などいなかったのだろう。宗教の残酷さ、宗教が希望でなく絶望を生み出す仕組みとなっていることをシェリダン監督は巧みに描き出している。
 こういった重苦しいテーマであるが、映画は決して重たくはない。物語は愛の行方を軸に据えながら、サスペンスフルに子殺しの真実も解き明かしていく。映画の見せ方としてうまい方法であり、飽きさせない作劇術だ。
 『ローズの秘密の頁』は、戦争と宗教に翻弄された一人の女の執念と、人間のままならぬ運命を描いた佳作である。

『ローズの秘密の頁』は岐阜CINEXほか、全国で公開中。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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