岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

関東大震災の陰に隠れた真実の提示

2023年10月12日

福田村事件

©「福田村事件」プロジェクト2023

【出演】井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、木竜麻生、松浦祐也、向里祐香、杉田雷麟、カトウシンスケ、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明
【監督】森達也

差別や偏見が引き鉄となる集団心理の恐怖

関東大震災は大正12(1923)年9月1日、午前11時58分頃に発生した大地震によって、南関東・神奈川から東京、その隣接域に大きな被害をもたらした災害の事を言う。死者、行方不明者は推定で10万5千人に及び、明治以降の日本の地震災害では最大の規模となった。

地震災害ではその死因に大きな違いがある。阪神・淡路大震災では、家屋倒壊による 圧死、東日本大震災では津波による溺死が多かったが、関東大震災では火災による焼死が多かった。昔の映像には竜巻のように火焔が吹き上がる火災旋風の様子が残されている。

『福田村事件』は、その震災から5日後の9月6日に、千葉県東葛飾郡福田村(現・野田市)で実際に起きた事件をもとにした映画である。

同年3月、香川県三豊郡(現・三豊市)を出発した薬売りの行商人15名は東へ向かい関西から群馬を経て、8月に千葉県に入った。

映画では村を出発する一団の様子が描かれている。商いの薬は "正露丸" などの頭痛薬や風邪薬で、置き薬として有名な富山を意識していたことは映画のなかでもあらわれる。

残された証人の証言によれば、9月6日の昼頃に、利根川沿いに福田村に辿り着いた。

映画で事件そのものの惨劇が描かれるのは終盤になってからで、震災の前からの穏やかな生活の様が丁寧に描かれている。

監督はドキュメンタリー作家の森達也で、劇映画は初めてとなる。序盤は予想に反して、日常を静かに描くことに重点置かれているが、勿論、時代の空気感、官憲や軍が及ぼす不穏な緊張感を鮮明に描くことも忘れてはいない。

行商人が被差別部落の出身者だった事実を隠すことなく、生々しい惨劇を事実として知らしめる映像は圧巻と言える。

しかし、大陸からの引揚者の夫婦、渡し船の船頭と従軍妻の不倫、日清戦争の英雄を騙る老人、親軍派を中心に異様に殺気立つ自衛団の村人たちの設定が、類型紋切型なのが気になる。また、新聞記者や惨殺される劇作家の存在が些か浮いて見えるのは残念だ。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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