岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

シリアスな内容を、ユーモアと詩情で包んだ瑞々しい映画

2023年09月26日

君は行く先を知らない

©JP Film Production, 2021

【出演】モハマド・ハッサン・マージュニ、パンテア・パナヒハ、ラヤン・サルラク、アミン・シミアル
【監督・脚本・製作】パナー・パナヒ

メタファーを考えながら観るのが醍醐味

私の若い頃は、イランといったら「アラビアンナイト」か「ペルシャ絨毯」か「ホメイニ師」のイメージしかなく、イラン映画を観るなんて想像もしていなかった。

そこに突如現れたのが、アッバス・キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』(1987)である。友だちのノートを間違って家に持ち帰ってしまった少年が、ノートを返すために友だちの家を捜し歩く内容で、日本では1993年に公開され、キネ旬ベストテンで8位にランクされた。ジグザグの道を何度も往復するシーンは、今でも強烈に脳裏に焼き付いている。

本作は、パナー・パナヒ監督(39)の長編デビュー作で、長男を国外脱出させるというシリアスな内容にも関わらず、ユーモアと詩情に溢れた瑞々しい映画になっている。

検閲が厳しく直接的表現が難しいイラン映画の特徴は、①ドキュメンタリーとフィクションの境界があいまい、②俳優と素人をうまく融合させている。特に子どもの使い方がうまい、③制約を逆手に取った巧みな映像表現やメタファー等があげられるが、本作もその全ての特徴を兼ね備えている。

原題は「Hit the Road(出発する)」で極めてシンプルだが、この題名にも当局の目を欺く意図が隠されているようで愉快である。

車に乗ってひたすら荒涼とした台地を走る4人と1匹。何故父は脚を怪我しているのか、何故長男は国外脱出するのか、説明は一切ない。転倒した自転車レースの選手を乗せるのも、余命僅かなペットの犬を世話するのも、イランの人にはそのメタファーがわかるのだろうが、親切に教えてはくれない。この意味を考えながら観るのがイラン映画の醍醐味なのだ。

イラン革命以前の歌謡曲も数々登場するが、やっぱり映画の話は楽しい。長男が好きなのは『2001年宇宙の旅』で、「まるで禅のようだ」と評するし、次男が父と語るのは『バットマン』だ。

イラン映画には目が離せないのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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