岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

日本の原風景が残る街で映画を観る贅沢

2018年04月25日

あまや座(茨城県)

【住所】茨城県那珂市瓜連1243(スーパーあまや 駐車場内)
【TEL】029-212-7531
【座席】31席

 茨城県水戸駅から福島県郡山駅を結ぶ全長137.5kmに及ぶローカル線の水郡線。水戸駅のホームから、二両編成のワンマンカーに乗り込む。12月初旬の土曜日の午後…1時間に1本という車内は、学校帰りの地元の学生たちで賑わっていた。

 発車して10分ほどで、窓の外には黄金色の田園風景が広がり、駅で扉が開くたび微かな焚き火の匂いが車内に漂ってくる。そして、線路沿いの道を頬っぺたを赤くした子どもたちが歩く…まるでサトウハチローの名曲「秋の子」の世界だ。
 水戸駅から8駅目に「瓜連(うりづら)」という無人駅がある。無人と言っても有人の切符売場があって、東京までの長距離切符も買うことができる。ただし、駅の周りには何もない。ホームからは畑の向こうに小さく民家が見える。そんな場所に、昨年の10月にオープンしたばかりの映画館があるという。たいがい映画館のある駅というのは、どんなに小さな街だとしても、それなりの顔つきがある。ところが、駅に近づく車窓から見える景色には、一向にそんな空気が感じられない。そのまま畑に囲まれた駅で降りる。さて…駅のどちら側に行けば良いものか?目印になる建物が無いので判断ができない。切符売場の駅員に尋ねてみると、「あぁ新しい映画館ね。こっちを真っ直ぐ…」と、あっさり教えてくれた。

 風になびくすすきの綿毛が舞う田舎道を教えられた通りに歩く。民家はあるけれど住宅街ではない。途中、写真館をやってる瓦屋根の古民家があった。晩秋の夕暮れどきにフジカラーの看板がやけに目立つ。その先には古い神社が見える。二本の立派な杉が鳥居のような佇まいの素鵞神社というスサノオを祀る地元の神社だ。そこの角からスーツケースを持った寅さんがひょっこり現れて来そうな…ここには、そんな日本の原風景が残っている。ネオン瞬く裏通りにある古い映画館も良いけれど、民家の灯りだけがポツポツと見える場所にある映画館なんて、考えただけでワクワクするではないか。やがて、県道に出ると、スーパーあまやの駐車場に目的の映画館「あまや座」があった。
 本当は閉店したスーパーをリノベーションする計画だったが、消防法や条例に合致せず断念。結局は駐車場に新しく作る事となり、予定から半年遅れてのオープンとなった。周りに食事をできる場所がほとんど無いため、ロビーでは地元の有名なパン屋さん「パン工房ぐるぐる」と提携してパンを発売している。周りに何も無いからこそ、映画の帰りに気分を台無しにする雑音が入って来ないのがありがたい。こじんまりとした場内の規模感もイイ感じだ。電車まで余裕があるので周辺を散策してみると、近くに常福寺の見事な山門があった。隣町には白鳥が渡ってくる池があるらしく、市はそれを観光のウリにしているが、この何も無い日本の原風景こそ素晴らしい観光資源と思うのだが。

出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2017年12月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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