チェスのルールは知っていなくてもスリルには引き込まれる

原作者のシュテファン・ツヴァイクは1881年にオーストリアに生まれたユダヤ系の作家、評論家で、「忘れじの面影」「メアリー・スチュアート」「マリー・アントワネット」など、映画化された作品も数多くある。

1933年隣国ドイツでヒトラーが首相に就任すると、オーストリアにも反ユダヤ主義的な雰囲気が高まり、不当な疑いから家宅捜査を受けたことを機に、イギリスに亡命した。

その後、アメリカ、ブラジルへと移住したが、1942年2月22日、2度目の妻であるロッテとともに服薬自殺した。

愛するヨーロッパとその文化の未来に絶望したための自死と動機づけされた。

原作「チェスの話」は、ツヴァイクが最後に発表した中編小説である。

ロッテルダム港を出発しアメリカへ向かう豪華客船。久々に再会した妻と乗船したヨーゼフ・バルトーク(オリヴァー・マスッチ)は、船内で開かれているチェスの大会を目撃する。

昔の記憶…かつて、ヨーゼフはウィーンで公証人を務めていた。ナチスがオーストリアを併合した頃、突然、ナチスに連行され、彼が管理していた貴族が所有する莫大な資産の預金番号を教えるように強要される。

それを拒絶したヨーゼフはそのまま、ホテルに監禁されてしまう。孤独な時間が彼を苦しめる。書物を所望するも無視されて、それでも何とか監視の目をすり抜けて手に入れた１冊は、チェスのルールブックだった。

客船のチェス大会、ヨーゼフは対戦中の船のオーナーにアドバイスし引き分に持ち込む。腕前、実力を買われたことで、チェスの王者との対戦が実現する。

手に入れたルールブックを熟読したヨーゼフはチェスの対戦の力を獲得する。

如何にしてチェスがヨーゼフをナチから守ったのか？ 王者との対戦と過去が繋がり白熱の真実が次第に明らかになる。スリリングな展開、サスペンス色たっぷりの力作である。