岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

個性派監督二人の不思議な味わいの共作

2023年07月31日

探偵マリコの生涯で一番悲惨な日

©2023「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」製作委員会

【出演】伊藤沙莉/北村有起哉、宇野祥平、久保史緒里(乃木坂46)、松浦祐也/高野洸、中原果南、島田桃依、伊島空、黒石高大/真宮葉月、阿部顕嵐、鈴木聖奈、石田佳央/竹野内豊
【監督】内田英二、片山慎三

奇想天外な6つのエピソードからなる怪作

「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」は、6つのエピソードを、「さがす」の片山慎三監督と「ミッドナイトスワン」の内田英治監督が3つずつ演出した共同監督作品。

「さがす」は中学生の少女と彼女の失踪した父親を描いた、リアルというより生々しいという表現が相応しい秀作。先の読めない展開と、父親役の佐藤二朗、娘役の伊藤蒼らの好演が光る重喜劇で、フィクションの枠に収まり切れないリアリズムは、今村昌平監督の後継者と言えるほどインパクトがある。

「ミッドナイトスワン」は、トランスジェンダーの主人公と彼女が預かることになる育児放棄された親戚の少女の心のふれあいを描いた、内田英治監督のオリジナル脚本による秀作。女として生まれてこれなかったトランスジェンダーの悲しみと母性の芽生えを見事に演じた草彅剛が素晴らしい。

さらに「ミッドナイトスワン」のもうひとりの主役である、親の愛情を得られずに育ったバレエ好きの少女の孤独を、服部樹咲(新人)がその佇まいでとても自然に表現している。服部樹咲は、バレエの才能で抜擢されたらしいが、笑わない大人に媚びない絶えず不機嫌な少女に、圧倒的な存在感を与えて映画の成功に寄与している。ふたりが心を通わせるエピソードにも説得力があり、悲劇ではあるが温かみのある、やさしい気持ちになれる素敵な作品である。

期待の個性派監督二人が組んだ「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」は、歌舞伎町のバーのママ兼私立探偵のマリコ(伊藤沙莉)を主人公に、忍者、殺し屋、連続殺人鬼、ヤクザ、FBI、そして宇宙人まで登場する奇想天外なエピソード集。

荒唐無稽な内容に似合わず、片山・内田の両監督の演出タッチはシリアスで重い。そのミスマッチが不思議な味わいになっている。6つのエピソードの関連は希薄で、盛り上がりには欠けるが捨てがたい怪作ではある。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

観てみたい

100%
  • 観たい! (7)
  • 検討する (0)

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

ページトップへ戻る