岐阜新聞 映画部

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頑固なカフタン仕立て屋職人の、タブーを超えた恋物語

2023年07月19日

青いカフタンの仕立て屋

© LES FILMS DU NOUVEAU MONDE – ALI N’ PRODUCTIONS – VELVET FILMS – SNOWGLOBE

【出演】ルブナ・アザバル、サーレフ・バクリ、アイユーブ・ミシウィ
【監督・脚本】マリヤム・トゥザニ

人を愛することは、戒律や法律で縛ることはできない

カフタンは、イスラム文化圏で着用されているゆったりとした丈の長い衣服のことで、日本では2020年頃よりレディースファッションのトレンドとして見かけるようになった。風通しの良い薄手の生地で作られることが多く、春夏シーズンに着用する衣服として親しまれている。

本作で出てくるカフタンは、モロッコの民族衣装で、結婚式などのお祝い事で着用。シフォンやレースが使われたとても華やかなロングドレスである。

舞台は、モロッコの首都で庭園都市と呼ばれるラバトと川1本隔てた古都サレ。主人公はオーダーメイドのカフタン職人ハリム(サーレフ・バクリ)と接客担当の妻ミナ(ルブナ・アザバル)。子どものいない夫婦2人で営む富裕層相手の頑固な仕立て屋だ。ミシンを一切使わずすべて手作業で、素材や生地、刺繍やコードのディテールまでこだわりぬいている誇り高き職人である。

そこに現れた美青年ユーセフ(アイユーブ・ミシウィ)に対するハリムの眼差しとミナの嫉妬で、すぐにゲイを扱った映画なのだとわかってくる。

イスラム教の戒律とモロッコの法律で固く禁止されている同性愛だが、夫ハリムが同性愛者であることを妻ミナは承知しているようだ。ハリムが街の公衆浴場へ行って、見知らぬ男とハッテンすることも薄々感ずいているかもしれない。むしろ彼女の愛情は、タブーによって自らのアイデンティティーに自信が持てないハリムを支えているのだ。

末期がんで余命いくばくもないミナは、夫ハリムと青年ユーセフの幸せを願うようになる。人を愛することの素晴らしさは、相手が異性か同性かは関係ない、戒律や法律で縛ることはできないと強く思うのである。

イスラム教での葬儀で死者に着せる装束は白であることが映画の中で示されるが、最後に何故タイトルが「青いカフタン」であるのかがよくわかる感動的なラストに繋がっていく。マリヤム・トゥザニ監督の2作目も傑作だった。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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