岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品それでも私は生きていく B! フランス女性の日常を淡々と描いたヒューマンドラマ 2023年06月13日 それでも私は生きていく 【出演】レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー、ニコール・ガルシア、カミーユ・ルバン・マルタン 【監督・脚本】ミア・ハンセン=ラブ どんな困難でもくじけず前向きに生きる 前作の『ベルイマン島にて』(2021)では、自身と元パートナーの実体験をもとに、人生の“凪の時間”を、現実と虚構を入り混ぜて描いたミア・ハンセン=ラブ監督。本作では自身と父との経験をもとに、仕事・子育て・介護、そして恋に奔走する姿を繊細に描き、見事な私小説的映画を作り上げた。 監督の分身ともいうべき主人公のサンドラを演ずるのは、元ボンド・ガールのレア・セドゥ。冒頭で病状が悪化している父(パスカル・クレゴリー)の家に向かうシーンでは、トレーナーにジーンズで登場。そのナチュラルで控えめな役柄は、次第に認知症がひどくなっていく父の介護でも、旧友クレマン(メルヴィル・プポー)との不倫の関係でも、泣き叫んだりせず落ち込みもせず、ごく自然にふるまい、ごく自然に受け入れる。 映画は、演出でドラマチックに強調するようなことはせず、スケッチブックにサラサラ描くように進んでいく。暑苦しさなど微塵もなく、爽やかな風が吹いている。 サンドラが素晴らしいのは、仕事も育児も介護も恋も、みんな一生懸命できちんと向き合っているところ。そして問題が起こったら自分だけで解決しようとせず、周囲の人に協力を要請するところだ。どんな困難でもくじけず前向きに生きる。まさに『それでも私は生きていく』のだ。 この映画を見ていて、フランスのゆるいパートナー制度には驚かされる。サンドラの両親は早くに離婚していてそれぞれにパートナーがいるが、その両親どおし普通に会っているし助け合ってもいる。フランスには結婚以外に、PACS(連帯市民協約)というのがあり、事実婚でも同性婚でも、ほぼ結婚と同様の待遇が受けられる。解消も結婚より簡単なのだ。 それから、元哲学者の父親の本は、まさに父親そのものというのはよくわかる。本棚に並ぶ本は、その人の考え方と人生の縮図なのだ。 フランス女性の日常を淡々と描いたヒューマンドラマである。 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 100% 観たい! (10)検討する (0) 語り手:ドラゴン美多中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。 2023年09月26日 / 君は行く先を知らない 暢気なユーモアが緊張に変わるロードムービー 2023年09月26日 / 君は行く先を知らない シリアスな内容を、ユーモアと詩情で包んだ瑞々しい映画 2023年09月25日 / ふたりのマエストロ 指揮者親子のハートフルコメディ more 2023年03月08日 / Bunkamura ル・シネマ(東京都) 上質な映画を上質な空間で、贅沢な時間を過ごす。 2019年07月03日 / 有楽町スバル座(東京都) 日本初のロードショウ劇場として名作を送り続けてきた 2020年09月02日 / 長野相生座・ロキシー(長野県) 善光寺の門前町にある明治時代から続く老舗映画館 more
どんな困難でもくじけず前向きに生きる
前作の『ベルイマン島にて』(2021)では、自身と元パートナーの実体験をもとに、人生の“凪の時間”を、現実と虚構を入り混ぜて描いたミア・ハンセン=ラブ監督。本作では自身と父との経験をもとに、仕事・子育て・介護、そして恋に奔走する姿を繊細に描き、見事な私小説的映画を作り上げた。
監督の分身ともいうべき主人公のサンドラを演ずるのは、元ボンド・ガールのレア・セドゥ。冒頭で病状が悪化している父(パスカル・クレゴリー)の家に向かうシーンでは、トレーナーにジーンズで登場。そのナチュラルで控えめな役柄は、次第に認知症がひどくなっていく父の介護でも、旧友クレマン(メルヴィル・プポー)との不倫の関係でも、泣き叫んだりせず落ち込みもせず、ごく自然にふるまい、ごく自然に受け入れる。
映画は、演出でドラマチックに強調するようなことはせず、スケッチブックにサラサラ描くように進んでいく。暑苦しさなど微塵もなく、爽やかな風が吹いている。
サンドラが素晴らしいのは、仕事も育児も介護も恋も、みんな一生懸命できちんと向き合っているところ。そして問題が起こったら自分だけで解決しようとせず、周囲の人に協力を要請するところだ。どんな困難でもくじけず前向きに生きる。まさに『それでも私は生きていく』のだ。
この映画を見ていて、フランスのゆるいパートナー制度には驚かされる。サンドラの両親は早くに離婚していてそれぞれにパートナーがいるが、その両親どおし普通に会っているし助け合ってもいる。フランスには結婚以外に、PACS(連帯市民協約)というのがあり、事実婚でも同性婚でも、ほぼ結婚と同様の待遇が受けられる。解消も結婚より簡単なのだ。
それから、元哲学者の父親の本は、まさに父親そのものというのはよくわかる。本棚に並ぶ本は、その人の考え方と人生の縮図なのだ。
フランス女性の日常を淡々と描いたヒューマンドラマである。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。
語り手:ドラゴン美多
中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。