岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

阪本順治監督の代表作のひとつとなる秀作

2023年06月06日

せかいのおきく

© 2023 FANTASIA

【出演】黒木華、寛一郎、池松壮亮、眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司
【監督・脚本】阪本順治

秀逸な台詞の数々とモノクロの映像美

「せかいのおきく」は、「座頭市 THE LAST」に次ぐ阪本順治監督の2本目の時代劇。

阪本順治監督の劇映画はすべて観ているが、「どついたるねん」、「愚か者 傷だらけの天使」、「顔」、「KT」、「魂萌え!」、「闇の子供たち」、「大鹿村騒動記」、「半世界」、「冬薔薇」と共に十指に入る作品である。

江戸時代末期、貧乏長屋で浪人の父親(佐藤浩市)と暮らすおきく(黒木華)は、刃傷沙汰で父親を殺され自身も喉を切られて声を失ってしまう。一方、江戸で糞尿を買い肥料として農村に売る下肥買いをしている矢亮(池松壮亮)と中次(寛一郎)は、差別的な扱いを受けながらも懸命に生きていた。「せかいのおきく」は、この三人の若者の日常に恋物語を交えて描いたモノクロ・スタンダードサイズの作品。

題材からモノクロを選択したとばかり思っていたが、阪本順治監督は以前からモノクロの時代劇を撮りたかったらしい。そして実のところ、パートカラーなので糞尿もカラー画面で描かれる。

主役の黒木華、寛一郎、池松壮亮に加え、阪本組常連の佐藤浩市、石橋蓮司、眞木蔵人ら俳優陣の好演。阪本監督自らが書いた脚本の秀逸なダイアローグの数々。そして笠松則通カメラマンの黒と白のコントラストが見事なモノクロの映像美。

阪本監督は、多くの時代劇小説、モノクロの時代劇映画、古典落語、そして江戸時代についての資料文献を参考にしたらしいが、それらが長屋の人々の暮らしぶりや汚穢屋(下肥買い)の仕事の描写に説得力をもたらしている。

格差社会で貧困に喘ぐ者も少なくない現代日本の若者への、辛い出来事が多い毎日でも心通わせる人がいれば挫けず立ち上がれる、というメッセージが感じ取れる1時間30分の秀作である。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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