岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

幕末を舞台に健気な生業を見つめた青春時代劇

2023年06月06日

せかいのおきく

© 2023 FANTASIA

【出演】黒木華、寛一郎、池松壮亮、眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司
【監督・脚本】阪本順治

大店より長屋の方が良質な糞尿だったという江戸時代の食生活の裏表

江戸時代末期の江戸が舞台。

とある寺の厠で、矢亮(池松壮亮)は糞尿を柄杓で掬い、肥桶に溜め込む作業をもくもくとこなす。江戸の糞尿を肥料として農村に売るという下肥買いがその生業。この日、相棒が病に倒れてひとりだった。

そこに突然の雨。厠のひさしの下で雨やどりをしていると、若い男が駆け込んで来る。大きな籠を抱えた男は不要になった古紙を買い、問屋に売る、紙屑買いの中次(寛一郎)だった。

そこにもうひとり、若い女が狭いひさしの下に割り込むように駆け込んで来る。女は寺子屋で子どもたちに読み書きを教えているおきく(黒木華)だった。

ちょっとした顔見知りだったが、たいした話もしたことがなかった3人の、この新たな出会いから映画は始まる。

『せかいのおきく』は、制作の始まりが面白い。監督の阪本順治が、プロデューサーから持ち込まれた企画は、「"SDGs" に関する映画を短編でもいいからやりたい」というものだったと言う。昨今何かと話題になる "SDGs" その中でも、"サーキュラーバイオエコノミー(循環型経済)" にまつわるものという、限定気味の内容だった。

阪本監督は、「自分には啓蒙的なものは撮れない」と懐疑的だったが、企画書に書かれていた内容にインスパイアを受ける。

"江戸時代の日本では糞尿を畑に撒き、野菜を作り、その野菜が人の口にはいり、また糞尿になるという循環型の社会が成立していた" という一文。"低い視座から、しかも汚いところから社会を眺める" そういう映画ならやれるかもしれない。そうして始まったのが短編の撮影だった。

下肥買いという、いわば最下層で働くことは、時に蔑みの視線を浴びせられた、鼻をつままれ避けられる。それでも明るく生きる姿が美しく見える。

モノクロ、スタンダードの質素だが美麗な映像。時に匂い立つ生活の実像。これも時代劇。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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