岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

個性豊かな人たちが集う、人間味のある精神科デイケア

2023年06月05日

アダマン号に乗って

© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride - 2022

【監督】ニコラ・フィリベール

「完璧な人間などいない」のだ

「アダマン号」は、パリ中央精神科医療グループに所属するデイケアセンターで、セーヌ川に浮かぶ木造建築の船である。そこでは他のセンターと共に、パリ中心部の1~4区の患者を受け入れている。

開所時間になると、船の木製シャッターが上下にゆっくり開き、朝のセーヌ川の柔らかい光が船内に降り注ぐ。内部もガラス張りになった開放的な空間で、「病院というよりアーティストのスタジオのように」というコンセプトで作られたオシャレな船内だ。

そこに統合失調症や双極性障害、うつ病などの精神疾患を抱えた患者約200人が通っている。

本作のニコラ・フィルベール監督は、そのデイケアセンターに通う人々を、何の説明もなくフラットに見つめ続ける。職員に制服はなく、ナレーションや場面説明のキャプションもないので、もはや誰が患者で誰が職員か見分けがつかない。

船内でのワークショップは、絵画やダンス、映画上映会にジャムづくりなど多種多様だ。そこに集う患者たちも個性豊かで愉快な人たちばかりだ。

映画冒頭で、ロックバンド"テレフォン"の「人間爆弾」を歌い上げる男性、自分と兄はゴッホ兄弟の生まれ変わりで、映画の『パリ、テキサス』に登場する兄弟は自分たちがモデルだと言い張る患者さん。

私がいまの生業としている「障害者就労移行支援」は、広い捉え方をすれば「デイケアセンター」の一部であり、社会復帰の様々なプログラムの中の「就労支援」を担当していることになる。

映画を見ていると、支援者と利用者のフラットな関係性や、障害名でなく個性として向き合う姿勢、ダメなところを否定して治させるのでなく、いいところを見つけ個性を伸ばしていくところなど、偉そうに言えば「我が意を得たり」なのだ。しかしながら正解も終わりもない世界なので、画一的な支援に陥らず、百人百様の個人に向き合っていくのだとも確信した。

「完璧な人間などいない」のだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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