岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

死を感じた肥満症の男の最期の数日

2023年05月30日

ザ・ホエール

© 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.

【出演】ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン
【監督】ダーレン・アロノフスキー

舞台劇のリアルを映像のリアルに変える工夫

薄暗い部屋。40歳になるチャーリー(ブレンダン・フレイザー)は、動かない。最愛のボーイフレンドだったアランをなくして以来、心にできた隙間を埋めるために、チャーリーは食べ続けた、果てしなく。そして今、巨大に肥満した。

外界との繋がりはインターネット。顔を見せないまま、オンラインの講師をする、動かない仕事で食い扶持を稼ぐ。過食は体を蝕み、心臓は悲鳴を上げ、最早、自力では成り立たない日常になってしまった。

それでも病院へ行くことは拒否し、身の回りの世話は、アランの妹で看護師のリズ(ホン・チャウ)に頼り切っている。

『ザ・ホエール』は、自らの死が近いことを悟ったチャーリーが、最期にやり残したことに立ち向かおうとするまでの数日を描いた映画である。

原作はサム・D・ハンターの戯曲で、全編にわたり、ほぼチャーリーの部屋からの映像に限定され、正しく舞台劇を彷彿させる。

映像は閉塞感を強調したスタンダードサイズで、チャーリーの部屋の狭い空間に留まりながら、息遣いや汗や涙で生きている証を映し出す。

リズとの、決して甘やかさないという拒絶の態度と、しっかりと寄り添おうとする深い愛情の混雑した関係性が秀抜。

乱入に近い新興宗教の勧誘員の、意味深な入退場も効果的な余韻を残す。

監督のダーレン・アロノフスキーの的確な演出は、役者の魅力を引き出す。

『ブラック・スワン』(2010/日本公開2011年)で、ナタリー・ポートマン演じるバレーダンサーのニナの狂気から美を浮かび上がらせたように、チャーリーのブレンダン・フレイザーの醜から美を掬い=救い出す。

チャーリーは、8年前、アランと暮らすため、切り離した家族、その時以来疎遠になった娘エリー(セイディー・シンク)との再会を果たそうとする。

切羽詰まった断末魔の叫びであることに、やり切れない思いを抱くのは厳し過ぎるだろうか?

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (9)
  • 検討する (0)

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

ページトップへ戻る