岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

人の死に向き合い未来に希望を託した映画

2023年04月17日

いつかの君にもわかること

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【出演】ジェームズ・ノートン、ダニエル・ラモント、アイリーン・オヒギンス
【監督・脚本】ウベルト・パゾリーニ

選択に後悔を残さないための時間の使い方

窓拭きの清掃員として働くジョン(ジェームズ・ノートン)は、4歳の息子マイケル(ダニエル・ラモント)とふたり暮らし。日々の食事の支度、身の回りの世話、託児所=幼稚園への送り迎えと、日常を滞りなく過ごす父子に見える。

とある家の窓拭きの作業中、ガラス越しに見えたその家の子供部屋。多分、歳も違うその部屋の主人の子供とマイケルのことを思い、ふと、寂しげな表情に変わるジョンがいる。

『いつかの君にもわかること』は、この父子家庭を描く映画だが、淡々とした描写の所々に、寂寥感が漂っている事に気づく。ジョンの置かれた状況、父子が辿るであろう未来への情報は、少しづつ小出しにされて、非日常的なものが意味するものを徐々に見せていく。

それはあたかも、幼いマイケルに今を、少し先の事を理解してもらう、緩やかなアプローチそのもののように見える。

父子が訪ねるのは見知らぬ家の夫婦。ぎこちない自己紹介を兼ねた、初対面の場は、まるで面接試験のような緊張感に包まれている。

こうした面談の場は複数、所々に繰り返し現れ、それが不可欠なものであることがわかってくる。その家はジョンの33歳という年齢よりも歳を重ねた夫婦であったり、母子の家庭であったりする。

それがソーシャルワーカーによって設定されたものであることが分かり、ジョンはそれに満足していない事を訴えるが、規則に則った手順を踏むことの重要性を強調される。苛立ちをあらわにする焦り、それには理由(わけ)があった。

あきらかな体調の悪さや病院通い、ジョンの置かれた現状が見え、その里親探しを急がねばならない理由があることが理解される。

監督は人の死を真摯に見つめた『おみおくりの作法』を手がけたウベルト・パゾリーニで、本作でもその視点は継続されている。

運命に悲観しその理不尽さへの怒りを無理に隠す事なく、終末を受け入れ、愛する子の未来に希望を託す。悲しくとも美しい映画である。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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