岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品スリー・ビルボード B! 暴力の時代を抉る恐るべき傑作 2018年04月02日 スリー・ビルボード ©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation 【出演】フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ 【監督】マーティン・マクドナー ダイナミズムと人間たちの魅力 主人公の女性と警察署長の会話。「人種差別をする署員を追放してよ」「追放してもいいけど、そうするとこの警察署に残るのは3人になる。しかもその3人はホモが嫌いだ」。かなり大げさでブラックジョークめかしてはいるが、地方のアメリカの警察の実情かもしれない。 これは警察官の差別を告発する映画ではない。その差別意識を根っこにした突発的な暴力衝動の恐ろしさと愚かさ。その暴力を「手当て」する可能性を信じた、気高く素晴らしい映画だ。今のアメリカには、核ボタンという暴力衝動として最悪のツールを握っている危険な最高権力者がいる。しかも様々な差別発言を繰り返しながら。この映画がいつ企画されたかは知らないが、その大統領を意識しているとしか思えない問題提起が映画の奥深く流れている。大好きなシーンがある。包帯の隙間の主観カメラの場面。暴力衝動を乗り越え、罪を告白。目を凝らして見つめたその相手からはオレンジジュース。確かに見た。涙が出た。あなたも包帯の隙間から、時には目を凝らして相手を見つめてみたらどうですか、と言っているかのように。凄い映画だ。 その凄さは何も裏目読みができるからではない。それは映画として映像表現がダイナミックで的確だからに他ならない。加えて誇り高き登場人物たちの魅力。監督のマーティン・マクドナーは凡作『セブン・サイコパス』から驚異の飛躍を見せた。ウディ・ハレルソンはじめ俳優陣も皆いいが、あれもこれもと書いていたらこのスペースでは収まりきらないので、あとひとつだけ。1970年代初頭に吹き荒れた暴力映画シーンの中核をなす『わらの犬』。そのラストシーンの問いかけに対するアンサーが、こちらのラストというのは穿ち過ぎか。そんな事まで考えたくなる、これは本当に内容豊かで凄味のあるアメリカ映画なのだ。 『スリー・ビルボード』は全国で公開中。 語り手:橘 真一元映画ライター、前映画中心の古書店経営、現某映画の会代表。色々とユニークに映画と関わってきている映画好き。「考えるな、感じろ」は好きだが「感じろ、その上で考えろ」はもっと好き。 100% 観たい! (5)検討する (0) 語り手:橘 真一元映画ライター、前映画中心の古書店経営、現某映画の会代表。色々とユニークに映画と関わってきている映画好き。「考えるな、感じろ」は好きだが「感じろ、その上で考えろ」はもっと好き。 2024年09月26日 / どら平太 日本映画黄金時代を彷彿とさせる盛りだくさんの時代劇 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 助けを求める人はもはや敵ではなく、ただの人間だ 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 海の男たちが下す決断を描くヒューマンドラマ more 2019年08月07日 / 刈谷日劇(愛知県) 愛知を代表する工業都市で名作を送り続ける街のミニシアター 2022年10月17日 / 港南台シネサロン(神奈川県) 生活の延長線にある居心地の良い街の映画館。 2020年11月25日 / 出町座(京都府) 商店街にある映画と本とカフェを愉しむ映画館 more
ダイナミズムと人間たちの魅力
主人公の女性と警察署長の会話。「人種差別をする署員を追放してよ」「追放してもいいけど、そうするとこの警察署に残るのは3人になる。しかもその3人はホモが嫌いだ」。かなり大げさでブラックジョークめかしてはいるが、地方のアメリカの警察の実情かもしれない。
これは警察官の差別を告発する映画ではない。その差別意識を根っこにした突発的な暴力衝動の恐ろしさと愚かさ。その暴力を「手当て」する可能性を信じた、気高く素晴らしい映画だ。今のアメリカには、核ボタンという暴力衝動として最悪のツールを握っている危険な最高権力者がいる。しかも様々な差別発言を繰り返しながら。この映画がいつ企画されたかは知らないが、その大統領を意識しているとしか思えない問題提起が映画の奥深く流れている。大好きなシーンがある。包帯の隙間の主観カメラの場面。暴力衝動を乗り越え、罪を告白。目を凝らして見つめたその相手からはオレンジジュース。確かに見た。涙が出た。あなたも包帯の隙間から、時には目を凝らして相手を見つめてみたらどうですか、と言っているかのように。凄い映画だ。
その凄さは何も裏目読みができるからではない。それは映画として映像表現がダイナミックで的確だからに他ならない。加えて誇り高き登場人物たちの魅力。監督のマーティン・マクドナーは凡作『セブン・サイコパス』から驚異の飛躍を見せた。ウディ・ハレルソンはじめ俳優陣も皆いいが、あれもこれもと書いていたらこのスペースでは収まりきらないので、あとひとつだけ。1970年代初頭に吹き荒れた暴力映画シーンの中核をなす『わらの犬』。そのラストシーンの問いかけに対するアンサーが、こちらのラストというのは穿ち過ぎか。そんな事まで考えたくなる、これは本当に内容豊かで凄味のあるアメリカ映画なのだ。
『スリー・ビルボード』は全国で公開中。
語り手:橘 真一
元映画ライター、前映画中心の古書店経営、現某映画の会代表。色々とユニークに映画と関わってきている映画好き。「考えるな、感じろ」は好きだが「感じろ、その上で考えろ」はもっと好き。
語り手:橘 真一
元映画ライター、前映画中心の古書店経営、現某映画の会代表。色々とユニークに映画と関わってきている映画好き。「考えるな、感じろ」は好きだが「感じろ、その上で考えろ」はもっと好き。