岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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キネ旬ベストワン、2022年を代表する傑作

2023年03月20日

ケイコ 目を澄ませて

©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

【出演】岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子/三浦友和
【監督】三宅唱

ボクシングのミット打ちのリズムと音

私が映画ファンになった頃は、ビデオもDVDもましてや配信などなかったので、旧作を観るにはもっぱら名画座だった。そこでは毎年春先になると「キネ旬ベストテン大会」と銘打って入選した映画を上映してくれ、見逃した映画が観られた。1974年の『サンダカン八番娼館・望郷』(1位)と『砂の器』(2位)の超ド級の2本立てなど、会社を超えて番組が組まれていたのだ。

そんな当時の番組編成を彷彿とさせるラインナップがCINEXで実現した。2022年キネ旬1位『ケイコ 目を澄ませて』、2位『ある男』が同時公開されるのだ。

『ケイコ 目を済ませて』(岐阜新聞6位)は、実在の聴覚障害者の女性プロボクサーを主人公に描いた作品だ。

この映画の特筆すべきところは、「聴覚障害者はこんなところに苦労している」という描き方をしていない点だ。ケイコ(岸井ゆきの)は、耳が聞こえないことを特別意識していない。聞こえないことによる健常者とのチグハグさをハラハラ思うのは聞こえる側の見え方であって、彼女にとっては問題ではない。多様性の認識はこういうところから始まるのだ。

障害者の方と向かい合うときに一番ダメなのは、「わかったような気になる」ことだ。「可哀そう」とか「気の毒」という気持ちは、善意の仮面を被った「他人事」という意識が透けて見える。

ケイコが通うジムの会長(三浦友和)には、そんな意識はない。ケイコの才能を問う記者に、彼は「才能はないかなぁ。だけど なんだろうな?人間としての器量があるんですよ」と応える。ここには「障害者としては」なんていう枕詞は無い。素晴らしい!

そして音の無い世界にいるケイコの、ボクシングのミット打ちのリズム。身体の動きで生じる規則正しいリズムは、我々にはバシンバシンという音として聞こえる。この何とも心地よいリズムと音でケイコと繋がったような気がする。2022年を代表する傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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