岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

伝説のクライマーの実像に迫るドキュメンタリー

2023年03月09日

人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版

©TBSテレビ

【監督】武石浩明

問いに意味がないことを実感させる信念

ノンフィクション作家沢木耕太郎が2008年に刊行した「凍」(新潮社)は、世界的なクライマー山野井夫妻が挑んだ、ヒマラヤの高峰ギャチュンカンへのクライミング=登攀を描いたもので、第28回講談社ノンフィクション賞を受賞した。

垂直の壁の如く立ちはだかる氷壁、極寒の風雪、何度も襲いかかる雪崩。臨場感溢れる登攀を記録した作品は、圧倒的な迫力で読むものを現場にまで引き込む力に満ちている。

クライマー山野井泰史は1965年東京生まれ。10歳の時、テレビで観た「モンブランへの挑戦」がきっかけとなり、登山家を目指すようになったという。高校生の頃にはアルパイン・クライミングに傾倒するようになった。アルパイン・クライミングは、登山とクライミングの要素を合わせて持つスタイルのことで、急峻な山岳環境における移動、ロッククライミングやアイスクライミングのことも含む。早熟の高校生は卒業後には、アメリカのヨセミテなどでフリークライミングに没頭するようになった。

『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界』は、いまや伝説のクライマーの貴重な登攀映像とともに、その業績と人に斬り込んだドキュメンタリーである。

1996年の、ヒマラヤ最後の課題 "マカルー西壁" への単独登攀をはじまりに、山野井の挑戦に取材のカメラは侵入して行く。過酷な現場への密着は、作り手も同じく登山家としての技量を伴わなければならないことを意味する。呉越同舟、同じ運命に寄り添うことから生まれる生の証言。カメラは登攀の現場のみならず、山野井夫婦、家族にまでも肉薄する。

山野井は「凍」の登攀の時、凍傷を負い、手足10本の指を欠損することになる。生々しい傷跡越しに見えるその表情に後悔は微塵もない。

高所恐怖症で傍観者にすぎない私は、この映像を前に言葉を失う。そして、あらためて何故そこまでするのかという問いかけが、喉元まで突き上げて来る衝動に襲われる。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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