岐阜新聞 映画部

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ユダヤ人絶滅のヴァンゼー会議を忠実に再現した映画

2023年03月07日

ヒトラーのための虐殺会議

© 2021 Constantin Television GmbH, ZDF

【出演】フィリップ・ホフマイヤー、ヨハネス・アルマイヤー、マキシミリアン・ブリュックナー
【監督】マッティ・ゲショネック

銃殺からガス殺への転換点となった会議

トーマス・マンに「ヒトラーの絞首人」と呼ばれ、親衛隊の部下たちからは「金髪の野獣」と渾名されたナチス第三の男ハイドリヒ。、ヒムラーと共に「ユダヤ人絶滅政策」を推し進めた悪名高きこの人物は、「ユダヤ人問題の最終的解決」が話し合われた本作の主題である「ヴァンゼー会議」(1942年1月20日)を主宰。その半年後の5月27日に、亡命チェコ軍人により襲撃され、6月4日に死亡した。ナチス高官に対する暗殺では唯一成功した事例である。

そしてドイツ人らしい律儀さで会議の議事録を残したのがアイヒマン。その模様を忠実に再現したのが『ヒトラーのための虐殺会議(原題:ヴァンゼー会議)』である。ちなみにアイヒマンは戦後アルゼンチンに逃亡潜伏、1960年にモサドにより発見されイスラエルに連行。1962年に死刑が執行された。

本作を観て戦慄を覚えるのは、ユダヤ人1,100万人を絶滅するための決定が白熱の議論を闘わせたのでなく、方法論としての若干の疑問を呈する者はいたが、たった90分で最終的には全会一致であったということだ。

ドイツの中枢部の最優秀な官僚たちが国家政策の重要な問題を、たいした議論もなく上層部に忖度して決めていく。これが日常的な決定プロセスだとすると、当時のナチスドイツだけでなく、今でも世界中の政府で行われている気がしてきて恐ろしいのだ。

さらに怖いのは、これが現代の会社組織や政治団体・市民団体等の会議でも、同じことが行われているのでは?ということ。

ヴァンゼー会議は、ハイドリヒが自らの権力を誇示し、さらに権力を集中・強化しようとしているのがよくわかる。それに対し参加者は、自分の立場と任務を守るための議論に終始し「効率化」と「負担軽減」が話し合われるのみだ。「そもそもこの政策は正しいの?」と誰も言わないし言えない。

銃殺からガス殺への転換点となった会議。集団心理は実に怖いのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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