学生街に今も残る昔ながらの二本立て名画座
2020年12月23日
早稲田松竹映画劇場(東京都)
【住所】東京都新宿区高田馬場1-5-16
【電話】03-3200-8968
【座席】153席
「早稲田松竹映画劇場」の設立は戦後間もない昭和26年、松竹系列の封切館としてスタートする。しばらくは新東宝作品も上映しており、まさに日本映画の黄金期に、勢いのある映画会社の二本立て興行で賑わいを見せていた。昭和50年には二番館となり、学生街ならではの400円均一という低料金でハリウッドメジャー系を中心とした良質な作品を提供していた。平成6年には外観と場内の設備をリニューアルして再スタートを切る。途中入場する観客が多かったため後方の扉を二重にして場内に明りが差し込まないよう工夫が施された。その頃から単館系の作品にも力を入れて、他の名画座では観られないような組合を意識的に選定していた。名画座と言えば年配の男性層が中心だが、そこに女性ファンが増え始めたのがこの頃だ。
プレスシートのコピーを無料で配布してくれるなどの温かい気配りから固定ファンも増えていた。ロビーには売店とかショップは無く至ってシンプル。中央に大きな柱があり(取り囲むように腰掛けがあるのが可愛い)、壁の掲示板には寄せられたリクエストが貼り出されているので、それを眺めながら次回は何を上映してくれるのか想像するのが楽しい。ところが、新しいファンが増えてきたそんな矢先の平成14年4月に突然の休館を宣言。このニュースに驚いたのは早稲田大学の学生だった。街から映画館の灯を消してはならない!と、早大の学生たちが中心となって「早稲田松竹復活プロジェクト」を発足したのだ。一時は経営難で休館という噂が立ったが、実は番組編成を見直すための休館で、その年の12月21日に『たそがれ清兵衛』で再スタートを切った。
「早稲田松竹映画劇場」と言えば、企画性のある魅力的な二本立ての組み合わせの妙だ。見る人が見れば、思わず「なるほど!」と膝を打ちたくなるセンスの良さ。それは例えば『海を飛ぶ夢』と『ミリオンダラー・ベイビー』という人間の尊厳と死生観を扱った組み合せだったり、『ローマの休日』と『ノッティングヒルの恋人』といった新旧ラブロマンスの王道など実に幅広くユニークだ。かと思えば『ロード・オブ・ザ・リング三部作』の長尺版を3週ぶっ通しで上映したりと、緩急自在の番組編成に次回は何をやってくれるか?と期待してしまう。こうした作品選びが名画座の醍醐味である一方で、これ!といった作品があってももう1本が揃わなかったり…と、番組編成スタッフが一番苦心するところだという。また、3~4本立で2000円のオールナイト上映「ミッドナイト・イン・早稲田松竹」名物企画で、開催日には若者を中心とした長い列が出来る。
ここを訪れる観客は、映画館で映画を観たいという人が圧倒的に多く、既にブルーレイ、DVD化されているにも関わらず特集上映には「ブルーレイを予約したけど観に来ました」という声を寄せられるという。自分の日課に映画観賞を取り入れた年輩の常連さんに対して、常にアンテナを張って自分の好みの作品を選別して観に来る学生たち…このバランスが現在の「早稲田松竹映画劇場」を支えている。番組編成をする際には、どちらか一方に偏らないよう毎週ターゲット層が変わるような番組編成を心掛けている。ひと月の内に、洋画・邦画・アジア・クラシックをバランスよくプログラムされているので、たまには何かのついでにフラっと寄り道…そんな気軽さで映画館に入ってみると意外な作品が生涯忘れられない作品になったり、お目当ての映画よりももう1本の方がお気に入りになるという意外性が二本立ての魅力だ。たまには自分の直感を信じて映画館の扉を開けてみると思いがけない出逢いがあるかも知れない。
出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2016年8月
早稲田松竹映画劇場のホームページはこちら
http://wasedashochiku.co.jp/
語り手:大屋尚浩
平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。
語り手:大屋尚浩
平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。
学生の街・高田馬場は、山手線の中でも独特の文化を生み出した街だ。学生ローンの看板とジャンキーな大盛り料理の店が建ち並ぶ駅前の喧騒とした雰囲気から、しばらく早稲田方面へと歩いて行くと一転して昔ながらの街の様相を呈してくる。新旧の文化が混在しているこの街に、古くからこの地を愛し続ける江戸っ子たちと、地元・早稲田大学の学生たちが愛して止まない名画座「早稲田松竹映画劇場」がある。早稲田通り沿いにある建物は否が応でも満ち往く人の目に留まり「懐かしいな、まだあったんだ」と立ち止まって見上げる人も少なくない。開場の20分前から出来始める列も自動券売機が開く頃には、30人程になる。料金は1300円(ラスト1本の入場料は800円)とリーズナブルな料金設定で、当日ならば入場券と外出証さえ持っていれば何度でも出入りが自由な昔ながらの名画座スタイルを踏襲している。