岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

傷みを分かち合い、アンヌに共感する映画

2023年02月28日

あのこと

© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB.

【出演】アナマリア・ヴァルトロメイ、サンドリーヌ・ボネール
【監督】オードレイ・ディヴァン

言葉では言い表せないほどの臨場感

2022年6月、保守派が多数を占めるアメリカ連邦最高裁は、「人工妊娠中絶」を憲法上の権利では無いとの判断を下した。トランプに指名された裁判官たちが実に半世紀ぶりに覆したのだ。トランプの負の遺産は簡単には解消できない。

一方カトリックの国フランスでは、長い間「人工妊娠中絶」は違法で犯罪とされてきたが、裁判を含む様々な運動を経て、1975年に合法化された。時代に合わず女性の権利を縛るような宗教的模範よりも、自由と基本的人権は侵すことのできない永久の権利として尊重されるのだ。

『あのこと』の主人公・大学生のアンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)が直面した「妊娠」という現実は、自由を謳歌していた彼女を当惑させ、待ったなしの判断を突きつけられることになる。

流産なのか中絶なのかで犯罪になるかならないかが決まる。そもそも男がいなければ妊娠できないわけで、女性だけが一方的に裁かれるのは理不尽極まりない。日本でも嬰児の死体遺棄事件で女性だけが捕まるが、彼女が誰にも相談できずに一人で抱え込み、段々大きくなる腹で不安の極致になっていく様子は想像に難くないのだ。

監督のオードレイ・ディヴァンは1980年生まれ。1960年代の女性が予期せぬ妊娠で一人で闘っていく姿を寄り添うように追っていくが、そんな生半可な言葉では言い表せないほどの臨場感で迫ってくる。

それは画面のアスペクト比を1.37:1のスタンダードサイズとし、余分なモノがなるべく映らないようにして画面に観客を集中させているからだ。されにアンヌとカメラが同化し、観客も出演者になったような目線で出来事を体験するような撮影方法もとっている。

映画の内容がアチコチ飛ばず、ひとつのテーマだけで推し進めていくのは、ときに単調になりがちだが、この映画は常に緊張感があり退屈なシーンは一切無い。アンヌの痛みを分かち合い、彼女に共感する映画なのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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