岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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新たな伝説として甦る信長と濃姫の物語

2023年01月31日

レジェンド&バタフライ

©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会

【出演】木村拓哉、綾瀬はるか、伊藤英明、中谷美紀、宮沢氷魚、市川染五郎、北大路欣也
【監督】大友啓史

有名武将たちを印象で切取り展開を委ねる脚本の妙

今年のNHKの大河ドラマは「どうする家康」で、脚本は古沢良太が担当している。

本作の脚本も古沢のオリジナルで、同じ戦国時代の設定で、登場する人物も重複する。勿論、タイトルロールである家康と、映画のレジェンドは信長だから主役は異なる。別ものとして考えるべきなのだが、同時期に、ひとりの脚本家が同じ時代を描いていることは、いやが上でも比較の対象になる。

また、戦国武将ものは最早、手垢まみれの状態で、さまざまな信長、家康が存在するし、既に出来上がってしまっているイメージや、歴史考証に則したセオリーが、作劇上の障害になることは想像にやすい。

まず、青年期、10代のやんちゃな信長が登場する。定着化している "うつけ" とか "かぶきもの" というイメージは、気が抜けていている馬鹿ものではなく、派手な振舞いをして常識を逸脱する行動派の王道の信長が君臨する。

転機となるのは、隣国美濃の斎藤道三の娘、濃姫との政略結婚だった。尊大な態度で迎える殿と勝ち気な姫の構図は、ことあれば互いが寝首をかくという緊張状態にある。

信長、濃姫による実力行使の対決シーン。殺陣の動きから感情の交流を浮かび上がらせる演出は、黒澤明の『乱』(1985年)の一文字次郎正虎(根津甚八)と楓の方(原田美枝子)の対決シーンを彷彿させる。男女の力関係を格差のない平等に設定し、野心、夢の共有へ導く。

濃姫の綾瀬はるかの圧倒的な存在感は、武将=男の影になっていた、姫=女の強さを強調する。ここでは、信長(木村拓哉)は受け身に徹する。この夫婦の関係性が如実になるあたりから、物語は古沢印として加速する。

主役のふたりの他にも、多彩な有名人物がいくらかの味つけをされているのも、抵抗を含んだ面白い趣向だと理解したい。

あまりに有名な結末まで、野心に溢れた脚本を緩むことなくまとめた大友啓史監督は受け身だが、自身の野心も随所に込められている。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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