岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

聴覚障害者の女性ボクサーに寄り添った傑作

2023年01月12日

ケイコ 目を澄ませて

©2022映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

【出演】岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子/三浦友和
【監督】三宅唱

岸井ゆきのの圧倒的な好演にノックダウン

ボクシングと映画の相性の良さは抜群で、日本映画に限っても、「アンダードッグ」、「あゝ、荒野」、「どついたるねん」、「百円の恋」等、傑作揃いである。しかしその殆どは、主人公が人生を賭けてリングに上がるクライマックスのドラマチックな作品である。

三宅唱監督の「ケイコ 目を澄ませて」は、耳の聞こえない女性ボクサーが主人公である。ハンデキャップのあるボクサーを描いているので、いくらでもドラマチックにできそうだが、三宅監督はそんな王道的な作劇を選択していない。

「ケイコ 目を澄ませて」は、聴覚障害者の主人公ケイコの日常に寄り添った自然体の人間ドラマ。ケイコはホテルで清掃業務をする傍ら、ボクシング・ジムに通いトレーニングに励んでいる。しかしコロナ禍で皆マスクをしているので、口の動きが読めず手話のできる相手としか会話もできない状況にある。障害者には何かと困難が付いて回る日常生活がリアルに描かれる。

ケイコを演じる岸井ゆきのが素晴らしい。「神は見返りを求める」のユーチューバー・ゆりちゃんとは全く違うキャラクターで、しかもセリフはすべて手話のため、感情の動きをわずかな表情の変化と佇まいで自然に表現している。困難にもめげないケイコのハードボイルドな生き様が魅力的。

  ケイコが通うボクシングジムの会長を演じる三浦友和の人間味豊かな演技も味わい深い。「線は、僕を描く」の師匠のキャラクターに少し似ている。

岸井ゆきのと三浦友和が、ミット打ちやシャドーボクシングのシーン等でみせる、無言のコミュニケーションが素敵だ。

音楽を一切使っていないのも作品内容に合っている。その反面、環境音は際立たせる音響設計により、普通なら聞こえている音がケイコには聞こえない事を観客に意識させる演出がなされている。16ミリフィルムを使った撮影も効果的で、独特の雰囲気が感じ取れる。

岸井ゆきのが造形したケイコの魅力とディテールの豊かさにノックダウンの、ひと味違うボクシング映画の傑作である。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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