岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品土を喰らう十二ヵ月 B! 土の匂い食物の匂い人の息遣いにあふれた映画 2022年12月29日 土を喰らう十二ヵ月 ©2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会 【出演】沢田研二 松たか子 西田尚美 尾美としのり 瀧川鯉八/檀ふみ 火野正平 奈良岡朋子 【監督・脚本】中江裕司 幸福がどこにあるのかを気づきに変えてくれる 作家の水上勉は1989(平成元年)に訪中作家団の団長として北京に滞在中、天安門事件を目の当たりにする。戒厳令下、市内の交通機関は途絶して足止めとなったが、3日後、東京からの救護機第1号で帰国することができた。 しかし、その直後、心筋梗塞で倒れ、生死をさまよい、集中治療室で3日間を過ごす。意識を回復した時、医師から告げられたのは「心臓の3分の2が壊死してしまっている…危険な状態だった」という説明だった。 『土を喰らう十二カ月』の主人公ツトム(沢田研二)も劇中、同様の心筋梗塞で倒れる。映画は、水上の料理随筆「土を喰う日々 わが精進十二カ月」を原案に、中江裕司監督がオリジナル脚本として構築した物語である。 水上は晩年を長野県北御牧村に住み、仕事場としても利用した。 作家のツトムがひとり暮らすのも、長野の人里離れた山間にある山荘である。家の側で畑を耕し、季節の野菜を育て、春には芽吹き始めた山菜を山中で採り、秋には様々なキノコを採る。出来うる限りの自給自足の食を実践している。 映画は移りゆく季節毎を切取り、ツトムの慎ましやかな日常を見つめていく。 山荘には時折、担当編集者である真知子(松たか子)が訪ねてくる。「ツトムさん」「真知子」と名前で呼び合う様子からは、作家と編集者以上の関係が察せられる。ツトムはもてなしの料理を自慢げに真知子に振る舞う。旨そうに喰らう真知子。その様子を満足気に眺めるツトム。 ツトムは13年前に妻を亡くしていたが、その遺骨を墓に納められないでいた。義弟夫婦に請われ、少し離れたところにある寂れた古家に住む妻の母親チエ(奈良岡朋子)を訪ねる。血の繋がりはなくとも、心を開いた親子の関係が見える。 土から掘り出すのは芋や根菜。地面から芽吹く蕗のとう、蕨、薇、枝先のたらの芽。電気やガスに頼らず、釜戸の薪や囲炉裏の火で料理する。素朴でありながら実に美味そう。人の営みを季節の移ろいと共に見つめた暖ったかい映画を御賞味あれ。 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 100% 観たい! (117)検討する (0) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2024年09月26日 / どら平太 日本映画黄金時代を彷彿とさせる盛りだくさんの時代劇 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 助けを求める人はもはや敵ではなく、ただの人間だ 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 海の男たちが下す決断を描くヒューマンドラマ more 2020年09月02日 / 長野相生座・ロキシー(長野県) 善光寺の門前町にある明治時代から続く老舗映画館 2021年10月13日 / 【思い出の映画館】千日前セントラル(大阪府) 戦後の活気ある商店街でアメリカ映画を送り続けた。 2018年02月07日 / Cinema KOBE(兵庫県) 映画発祥の地で、映画を愛する常連さんに支えられ… more
幸福がどこにあるのかを気づきに変えてくれる
作家の水上勉は1989(平成元年)に訪中作家団の団長として北京に滞在中、天安門事件を目の当たりにする。戒厳令下、市内の交通機関は途絶して足止めとなったが、3日後、東京からの救護機第1号で帰国することができた。
しかし、その直後、心筋梗塞で倒れ、生死をさまよい、集中治療室で3日間を過ごす。意識を回復した時、医師から告げられたのは「心臓の3分の2が壊死してしまっている…危険な状態だった」という説明だった。
『土を喰らう十二カ月』の主人公ツトム(沢田研二)も劇中、同様の心筋梗塞で倒れる。映画は、水上の料理随筆「土を喰う日々 わが精進十二カ月」を原案に、中江裕司監督がオリジナル脚本として構築した物語である。
水上は晩年を長野県北御牧村に住み、仕事場としても利用した。
作家のツトムがひとり暮らすのも、長野の人里離れた山間にある山荘である。家の側で畑を耕し、季節の野菜を育て、春には芽吹き始めた山菜を山中で採り、秋には様々なキノコを採る。出来うる限りの自給自足の食を実践している。
映画は移りゆく季節毎を切取り、ツトムの慎ましやかな日常を見つめていく。
山荘には時折、担当編集者である真知子(松たか子)が訪ねてくる。「ツトムさん」「真知子」と名前で呼び合う様子からは、作家と編集者以上の関係が察せられる。ツトムはもてなしの料理を自慢げに真知子に振る舞う。旨そうに喰らう真知子。その様子を満足気に眺めるツトム。
ツトムは13年前に妻を亡くしていたが、その遺骨を墓に納められないでいた。義弟夫婦に請われ、少し離れたところにある寂れた古家に住む妻の母親チエ(奈良岡朋子)を訪ねる。血の繋がりはなくとも、心を開いた親子の関係が見える。
土から掘り出すのは芋や根菜。地面から芽吹く蕗のとう、蕨、薇、枝先のたらの芽。電気やガスに頼らず、釜戸の薪や囲炉裏の火で料理する。素朴でありながら実に美味そう。人の営みを季節の移ろいと共に見つめた暖ったかい映画を御賞味あれ。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。