岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

文学者たちの泥々の恋愛模様

2022年12月27日

あちらにいる鬼

©2022「あちらにいる鬼」製作委員会 

【出演】寺島しのぶ、豊川悦司、広末涼子、高良健吾、村上淳、蓮佛美沙子、佐野岳、宇野祥平、 丘みつ子
【監督】廣木隆一

装わされた人(おんな)と装った人(おとこ)

人気作家の長内みはる(寺島しのぶ)は、講演旅行で同伴することになった同業の白木篤郎(豊川悦司)と出会う。

白木は、長内にとっては文学の師として仰ぐ存在であったが、同時に、より深い関係=男女の関係に移行することに躊躇いはなかった。

白木の奔放な女性関係は、長内にはじまったことではなく、その後始末に介入するのは妻の笙子(広末涼子)の役割で、夫婦は歪でありながらも、強く結ばれた関係を維持していた。

原作は直木賞作家・井上荒野の同名小説で、小説のモデルとなっているのが、自らの両親であることは自明の事実。名前こそ変えてあるが白木は荒野の父である井上光晴のことで、長内は瀬戸内晴美(寂聴)のことである。

井上光晴の事は、ドキュメンタリー『全身小説家』(原一男・監督/1994年)に詳しい。この映画は、井上が癌によって亡くなるまでの5年間を追ったもので、その虚構と現実が赤裸々に記録されている。旺盛な創作活動の傍ら、地方にも積極的に出向き、その地で文学を志す人の集まりにも講師として参加している。

本作にも打上げの宴会の余興で、女装した白木が舞(?)を披露する場面があり、ドキュメンタリーにも生々しい実像が記録されている。

一方、瀬戸内晴美は、1973年、51歳の時に、突然の出家で世間をざわつかせた事は有名だが、晴美という名前ではなく、寂聴という法名の方が浸透しているかも知れない。

白木を自宅に招くシーンに登場する同居人の男(高良健吾)は、かつて夫と娘を捨て、駈落ちをした時の相手であり、ふたりは一度は別れている。

『あちらにいる鬼』はスキャンダラスな関係で繋がった作家の生々しい恋愛模様を、別の見方をすれば、ある実情を赤裸々に吐露した物語である。

昨今なら不適切な不倫と一蹴されかねないし、道徳を持ち出せば非難も免れない。

暴露的に真実を追求した長内=瀬戸内と、虚構にまみれた白木=井上。この両極に見える作家の姿が共に真(まこと)なのが滑稽でありながら凄い。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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