岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ヒッチコック映画のような、先が読めないスリラー

2022年12月12日

君だけが知らない

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【出演】ソ・イェジ、キム・ガンウ、パク・サンウク、ソンヒョク
【監督・脚本】ソ・ユミン

記憶喪失と予知能力。疑惑の眼は幾重にも重なる

優れたサスペンスやスリラー映画を例えるのに、「ヒッチコックのような」という紋切型の常套句がある。私は批評するのに、そういう言い回しをなるべく使わないようにはしているが、本作はあえて「ヒッチコック映画にインスパイアされた新機軸スリラー」と言いたい。

妻が夫に対して疑惑の目を向け、殺されるかもしれないと恐怖にかられる設定は、ヒッチコック監督の『断崖』(1941)によく似ている。妻のジョーン・フォンテイン(アカデミー賞主演女優賞受賞)が、夫のケーリー・グラントに対して次第に疑惑を抱いていくというスリラーで、日本では1947年に公開。その年のキネ旬外国映画ベストワンに輝いている。

本作の主演ソ・イェジ ( キム・スジン役)が記憶喪失という設定はありきたりではあるが、加えて予知能力があるというのは私にはあまり記憶が無い。これにより疑惑の眼は幾重にも重なっていく。

下手なミステリーやスリラーによくあることだが、謎を広げるところまでは上手くいっていても、イザ解決部分になるとバタバタと説明的になってしまって鼻白む。しかし本作は、綿密に練られた構成と状況設定により、広げた風呂敷を実に上手に畳んでいる。

またミステリーには観客に対するミスリードがつきものだが、基本的に登場人物は誰も嘘を言っておらず、受け取る側が「それは嘘ではないか?」と疑う構図であり、観客も一緒に心地よくミスリードされているのだ。演出はフェアプレーである。

エレベーターに女性が一人で乗る恐怖心を巧みに利用するなどスリラー部分も秀逸。

そしてスジンの「予知能力」。これはこの映画の中核的部分であるのでネタはあかせないが、記憶喪失に巧みに絡ませており素晴らしいアイデアだ。

原題は「내일의 기억(明日の記憶)」。英題は「Recalled(リコール)」。邦題は若干ネタバレ気味だがキャッチーとしてはわかりやすい題名である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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