岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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逆流する記憶と対峙する母と息子の物語

2022年11月07日

百花

Ⓒ2022「百花」製作委員会

【出演】菅田将暉、原田美枝子、長澤まさみ/北村有起哉、岡山天音、河合優実、長塚圭史、板谷由夏、神野三鈴/永瀬正敏
【監督】川村元気

うわ言のように繰り返される "半分の花火" の謎解き

レコード会社に勤める葛西泉(菅田将暉)には、ピアノ教室を営む母・百合子(原田美枝子)がいた。親子には過去の出来事を境に、互いの心にできた溝を埋められずにいた。

ある日、百合子に異変が起きる。

『百花』はプロデューサーとして数々のヒット作を生み、小説家、脚本家としても活躍する、川村元気が、2019年に発表した自らの同名小説を映画化した初長編監督作品である。

認知症と診断された百合子は、消えゆく記憶のみにとどまらず、ピアノさえ弾けなくなっていく。そして、泉の妻・香織(長澤まさみ)の名前すら忘れてしまう。

泉はそんな様子を見るにつけ、過去にあった母との時間、記憶を蘇らせるのだが、わだかまりは心の底に沈澱したまま、それでも母と接するうちに、壊れゆく母を支える気概が芽生え始める。

川村元気のプロデューサーとしてのキャリアは、ベストセラー小説の実写化から、アニメーション、そして自らが書いた小説の映画化と、多種多彩で、ひとつの枠に留まることはない。

本作では初演出でありながら、ワンシーンワンカットの長回しというテクニカルな手法を採用している。動きを極端に抑える絵づくりからは、記憶を印象として刻印する方法が見えてくる。

記憶の儚さを見つめながら、とことんこだわり続けるのも記憶であるという矛盾を感じはするが…。

菅田将暉は、母との距離感に戸惑い、葛藤する息子役を、消えゆくものの対極としての生の証を、妻役の長澤まさみが繊細に鮮烈に演じている。

泉は、百合子の部屋で "日記帳" を見つけてしまう。綴られ記録された過去の秘密。そこには真相があった。

百合子を演じた原田美枝子は、我々の世代には、そのデビューを目撃し、今も変わらずキャリアを重ねる貴重な女優である。認知症の母を演じることに年月の重みを感じ、母性からは遠い酷い女性を演じることに残酷さを感じつつ、壊れ行く姿のリアルな脆さと、美しさを失うことない幻影を見事に共存させた演技に圧倒された。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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