岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

感動を押し付けない監督の姿勢と手腕が浮かび上がる

2018年03月12日

生きる街

©2018「生きる街」製作委員会

【出演】夏木マリ、佐津川愛美、堀井新太、イ・ジョンヒョン、岡野真也、吉沢悠、原日出子、升毅
【監督】榊英雄

寄り添うという視線

 東日本大震災から昨日で7年を迎えた。これだけの年月を経た今もなお、東日本大震災と、その後の原発事故をテーマにした映画は作られ続けているそれらは低年齢層を対象にした幼稚な青春映画が跋扈する日本映画界にあって、作り手の誠実な姿勢が窺える貴重な作品群と言っていい。
 宮城県石巻市を舞台としたこの映画もそんな1本。津波で傷ついた家族の物語だが、何よりも押し付けがましくない演出がいい。明日に希望を持たせたい映画がやりたがるのが、感動の押し付け、押し売り。バラバラになっていた家族は、問題を全部解決してひとつになりました、めでたしめでたし、なんてね。だが、俳優出身の監督・榊英雄はそうはしなかった(ただし韓国人青年のエピソードは余分)。家族はまた離れていくのに、この清々しさは何だろう。それは作り手の視線が観客に媚びずにぶれていないからだ。
 「あなたは全部ケガのせいにして逃げてる!」「あれだけの思いをしたんだ。逃げて何故悪い」。そう、頑張れ、逃げるな、前を向けと責めるばかりじゃなく、相手の厳しい体験を認めた上で寄り添うという視線。現実をキチンと正面から見据えつつ、監督の思いとして希望を浮かび上がらせる。これが監督の手腕だろう。
 また意外と言っては失礼だが、主演の夏木マリがいい。声は大きく服装も派手なのに出しゃばらない。群像劇の中心として、ドラマを引き締めている。
 君塚良一監督『遺体 明日への十日間』、神山征二郎監督『救いたい』、廣木隆一監督『彼女の人生は間違いじゃない』に連なる佳作がまた1本。

語り手:橘 真一

元映画ライター、前映画中心の古書店経営、現某映画の会代表。色々とユニークに映画と関わってきている映画好き。「考えるな、感じろ」は好きだが「感じろ、その上で考えろ」はもっと好き。

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語り手:橘 真一

元映画ライター、前映画中心の古書店経営、現某映画の会代表。色々とユニークに映画と関わってきている映画好き。「考えるな、感じろ」は好きだが「感じろ、その上で考えろ」はもっと好き。

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