岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

現実と妄想、過去と未来が入り混じる

2022年10月11日

彼女のいない部屋

©2021 - LES FILMS DU POISSON – GAUMONT – ARTE FRANCE CINEMA – LUPA FILM

【出演】ヴィッキー・クリープス、アリエ・ワルトアルテ
【監督】マチュー・アマルリック

クラリスは悲しみを乗り越え再生するのだ

本作の公式サイトを見ると、TOPに「彼女に実際には何が起きたのか、この映画を見る前の方々には明らかになさらないでください(マチュー・アマルリック監督)」とある。さらにあらすじは「家出した女の物語、のようである」と記されているだけだ。

私は普段、出来る限り事前情報を調べずに観るタチなので、このキャッチーはいらぬ情報ではあるが、本作に限れば観客を混乱させるだけである。

原題は"SERRE MOI FORT(強く抱きしめて)"なので変な先入観を持つことは無いが、日本題名『彼女のいない部屋』は観る前からミスリードしている。

映画を観終わったあとでは、これはクラリス(ヴィッキー・クリープス)の現実と妄想、過去と未来が入り混じった頭の中の映像であることがわかるが、何の予備知識もなくただ素直に観るならば、ファーストシークエンスは「クラリスの家出」と捉えるのが私を含めた凡人の見え方だ。。

同様のコンセプトで作られたアンソニー・ホプキンス主演の『ファーザー』(2021)は、認知症の人の現実と妄想、過去と未来を見事に再現していたが、本作は下手か独り善がりにしか見えなかった。

と前半で文句ばかり述べたが、決して悪い映画ではない。いやむしろ、身近な人の死に直面した混乱と自身の受け入れまでを描いた、真摯ないい映画なのだ。2度観ることに越したことは無いが、ネットに転がっているあらすじを読んで確認しながら反芻し、頭の中で構成を組み立て直したら、この映画の良さがドンドン浮かび上がってきた。

クラリスが、家族を置いてしばらく旅行に出かけたことを悔やんでいたり、成長したはずの娘が流暢にピアノを弾いている姿を想像していたり、流れがわかれば共感を呼び泣かずにいられない。

スペインとの国境を隔てるピレネー山脈の冬の雪山と雪解けの春。懐かしい思い出と残酷な現実。クラリスは悲しみを乗り越え再生するのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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