岐阜新聞 映画部

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「自由とは何か?」を問うた人間賛歌の映画

2022年09月27日

アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台

©︎2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms

【出演】カド・メラッド、ワビレ・ナビエ、ソフィアン・カメス、ダヴィッド・アヤラ、ピエール・ロッタン、ラミネ・シソコ、アレクサンドル・メドベージェフ、
【監督・脚色】エマニュエル・クールコル

エチエンヌ一世一代の名演が感動を呼ぶ

私が現役の映画評論家の中で町山智浩さんと共に信頼を寄せているのが、森直人さんである。

氏が活躍するYouTubeチャンネルの「活弁シネマ倶楽部」の中で、本作を「大元は『がんばれ!ベアーズ』(1976)」だとし、「実力はあるけど冴えない人生を送っているプレーヤーがコーチとなって、素人同然の問題児たちを教育する話」で「どんどん実力を発揮して強豪チームになっていく。それが彼ら自身の自己解放に繋がっていく」パターンの映画だと評していた。

実に我が意を得たりの評論なので引用したが、その黄金パターンを踏襲しつつ、後半からの予想を遥かに超える展開は感動の押し付けでなく、「自由とは何か?」を問うた人間賛歌の映画となった。ちなみに森さんも後半部分を絶賛している。

囚人たちに演じさせるのは、サミュエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」(1952発表)だ。

この不条理演劇を私は生憎観ていないが、戯曲を読んだことはある。内容はというと、とりとめのない会話が延々と続き何もおこらない。筋は何もない。しかし「ゴドー」にないものは何かといったら、何でもあるのだ。---と解説を読んでもよくわからない難解さだった。

本作は当然この「ゴドーを待ちながら」の内容とリンクしてくるわけだが、私はどこがリンクしているかは正直よくわからない。

演劇ワークショップを主宰する売れない役者エチエンヌ(カド・メラッド)だけは分かっているから演出できるのだと思うが、与えられた役を演じる囚人たちは思う存分自己解釈して、思いっきり自由に演じている。

観客だってこの難解な芝居を覚悟して観に来ていると思うが爆笑の渦なのだ。勝手な改変を許さなかったベケットが生きていたらいったい何と言うだろう?

映画のクライマックスをあかすことは出来ないが、エチエンヌ一世一代の名演が感動を呼ぶことだけは伝えたい。思わず拍手をしたくなる。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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