岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

老ドレッサーの追憶のロードムービー

2022年09月14日

スワンソング

© 2021 Swan Song Film LLC

【出演】ウド・キアー、ジェニファー・クーリッジ、マイケル・ユーリー、リンダ・エヴァンス
【監督】トッド・スティーブンス

指輪だらけの指と紙ナプキンを美しく折る指先

とある老人ホーム。

目覚めた男は、いつものルーティン…いや、本当はそんなものは存在しない、惰性のような繰り返しの朝を迎える。個室は唯一のプライバシーを守れる聖域だが、それでも無遠慮に介護士がドアを開ける。

部屋を出れば、徘徊老人たちが道を塞ぐ。それを縫うように進んだ先にある休憩所では、美しきご婦人がぼんやりと外を見つめている。感情を無くした虚な視線。男は乱れた女性の髪にそっと手を触れ優しく整える。そして、隠し持っている煙草をふたりで愉しむ。

かつてはヘアーメイクドレッサーとして、街いちばんの店を経営し、金持ちの顧客に囲まれていた男。"ミスター・パット" こと、パトリック・ピッツェンバーガー(ウド・キア)は、最愛のパートナーだったデビッドをエイズで亡くし、弟子に顧客を奪われ、店も手放すはめになり、今は、この老人ホームでひとり孤独な日々を送っているのだった。

ある日、パットのもとに、見知らぬ男、弁護士を名乗る男が突然現れ、仕事の依頼をしてくる。

その仕事は、元顧客で親友と呼べる存在であったリタの死と彼女の遺言 "死化粧" を施して欲しいという依頼を告げるものだった。

簡単には解けないわだかまりから、その仕事をきっぱりと断ったパットだったが、くすぶり続けていた微かな仕事への情熱は失われてはいなかった。意を決したパットはホームを脱出して、小さな旅に出る。

『スワンソング』は、パットの思い出の地への追憶の旅を描いたロードムービーである。

パットを演じたウド・キアは1944年ドイツ・ケルン出身。ホラー映画からアート作品まで、幅広く活躍する俳優だが、本作では、さり気ない所作で、ゲイのドレッサーを体現するきめ細かい演技で、パット像を見事に浮かび上がらせている。

我儘で周りから反発され嫌われ者となってしまった孤独な男の末路、旅路の果てに解ける誤解と友情の回復は儚くも美しい。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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