岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

嘘偽りのない人生、余韻の残る素敵なロードムービー

2022年09月13日

スワンソング

© 2021 Swan Song Film LLC

【出演】ウド・キアー、ジェニファー・クーリッジ、マイケル・ユーリー、リンダ・エヴァンス
【監督】トッド・スティーブンス

彼の追憶の旅は気高く美しい

古代ギリシャの哲学者プラトン(BC427-BC347)の中期の代表作「パイドン」に出てくる挿話に「白鳥は死ななければならないと気づくと、・・・極めて美しく歌うのである。」(岩田靖夫訳/岩波文庫)とある。これはヨーロッパの伝承で、死ぬ間際に最高の仕事をしたり作品を残すことを「白鳥の歌(Swan Song)」と表現するらしい。恥ずかしながら映画を観たあとネットで調べて初めて知った。

『スワンソング(Swan Song)』は、かつてヘアメイクドレッサーとして大活躍し今は老人ホームで暮らすミスター・パット(ウド・キアー)が、疎遠になっていた親友リタの死化粧を頼まれたことから始まる、ちょっとしたロードムービーである。

老人ホームでのミスター・パッドは、ボケ防止のためか日がな一日食堂のナプキンを、折り目正しく折っている。かつては名前をとどろかせた有名人も、いまは一介の老人だ。パットはそんな境遇を受け入れているように見える。

そんなとき、リサの代理人がミスター・パットに、「死化粧をパットに頼みたい。報酬25,000ドル」というリサの遺言を伝えにくる。最初は過去のいきさつから断るものの、あたかも本能に突き動かされるかの如くリサの葬儀場に向かう。必殺の黄金パターンだ。

舞台はオハイオ州サンダスキー。五大湖のエリー湖に面したアメリカ中西部の街だ。

ミスター・パットはゲイである。映画を観ると地元ではゲイを隠すことなく堂々と生きてきている。旅の道中で行きかう人、昔の顔なじみ、みんな彼を差別することなく偏見をもつことなく自然に受け入れている。

ミスター・パットが、昔の姿を段々と取り戻していく様子が素晴らしい。オシャレなハットやグリーンのセットアップに身を包んだ姿はさながら白鳥の様だ。

彼の追憶の旅は気高く美しい。それは嘘偽りのない人生だったからだ。余韻の残る素敵な映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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