岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

半漁人と中年女性の大人のラブストーリー

2018年03月05日

シェイプ・オブ・ウォーター

©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

【出演】サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スツールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
【監督】ギレルモ・デル・トロ

豊穣な水のイメージによる魔法の瞬間

 ギレルモ・デル・トロは怪獣やロボット、ミュータントらを題材にした特定のジャンルの監督と見なしていたが、スペイン内戦時の地方都市に住む少女を題材とした『パンズ・ラビリンス』(2006)は高い評価を受けた。その後『パシフィック・リム』(2013)は大味な娯楽大作だったのでがっかりしたものの、この新作は大人の鑑賞に耐えうるラブ・ストーリーとなっている。各賞を総なめにし、一躍時の人となった。アマゾン奥地で捕獲された半漁人と深夜に清掃業務に付く孤独な声を失くした中年女性のラブ・ストーリー。半漁人は監督自身の投影だろう。
 女性が間借りするアパートの一階は映画館。ヘンリー・コスター監督の『砂漠の女王』(1960)が上映中。1960年代初頭のボルチモアが舞台。軍の秘密施設で働く主人公は手話で仲間とやり取りする。半漁人との間に湧き上がる感情の発露が繊細に描かれる。
 人種のみならず、宗教や国境にも極めて不寛容な今日、監督がこの映画に込めたテーマは明らかだ。人間でない他の種族を実験体としか見なさない責任者と、何とか逃がそうとする研究者の対立。
 時代設定をあえて現代にしなかったのも成功の要因の一つ。アリス・フェイが歌う、貴方は私がどれだけ愛しているか分からないというノスタルジックな「You'll Never Know」が繰り返し使われる。また、シャンソンの名曲「La Javanaise」が雨の中、通勤のバスの窓を水滴がつたわるシーンで流れる。映画ならではの魅惑的な表現で、この監督も随分成熟したものだと感じた。音楽のアレクサンドル・デスプラも繊細な映像にピッタリの選曲と音楽で印象に残る。
 研究施設の壁、清掃員の制服、バスの車体、半漁人の水槽の液体など、この映画には青緑色が溢れている。トッド・ソロンズの秀作『キャロル』(2015)と色彩設計が似ており、かなり影響を受けたのではないか。

『シェイプ・オブ・ウォーター』はイオンシネマ各務原、TOHOシネマズ モレラ岐阜、TOHOシネマズ岐阜などで全国ロードショー。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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