岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

感受性の豊かさを感じる落ち着いた演出、素晴らしい才能だ

2022年07月20日

逆光

© 2 0 2 1 『逆光』F I L M

【出演】須藤蓮、中崎敏、富山えり子、木越明
【監督】須藤蓮

「うちの親戚、みんなピカで死んだんよ」

トークショーに現れた俳優で映画監督の須藤蓮さん。細身で高身長というスタイルの良さに、ツルッとしたきめの細かい肌にキリッとしたまゆ毛と人懐っこそうな澄んだ瞳の小顔。MCの眼をしっかり見つめ客席にも眼を配りつつ、時折見せる笑顔。アイドルっぽさも併せ持ったイケメンだ。

そして人の気をそらさない筋の通った言い淀みのないトーク力は、タレントとしても素晴らしい能力だ。

それに映画監督が加わった。

『逆光』の舞台は尾道。『東京物語』や大林宣彦監督作でお馴染みの街だが、また新しく名作が付け加わった。

須藤さん初監督の本作は、全部を言わせない抑制の効いた渡辺あやさんのシナリオ、感受性の豊かさを感じる落ち着いた演出、素直に風景を切り取りつつ画に意味を持たせた撮影、若者のナイーブさや残酷さを程よい演技でリアルに演じた俳優など、すべてが初々しく素晴らしい。

晃(須藤蓮)が2階にいる先輩吉岡(中崎敏)を煙草を吸いながら見ているシーンや、海に服のまま飛び込んで2人ではしゃぎ回っているシーン、火照った先輩の背中にそっと氷枕をあてるシーン。私にはそれ以上の一線を越えるとは思えないが、この何となくザワザワしてくる感情を実に巧みに切り取っている。

さらに尾道での先輩との別れを正露丸のやり取りで表現しているなど、観終わった後でも「正露丸」というフレーズでラストシーンを思い出すことができるという、まさにプロの仕事だ。

時代設定は1970年代。ファッションや小道具も見事に再現されているが、青臭い発言をしている学生たちの議論のシーンが秀逸だ。日本も核武装がどうのこうのと頭の中だけで熱くなっている若者たちに、みーこ(木越明)が「うちの親戚、みんなピカで死んだんよ」と割って入る。それまで天然だと思っていたみーこの背負っているものがわかるのと同時に、彼女は見事立ち向かったのだ。

素晴らしい才能である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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