岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

あなたは過去の記憶を都合よく書き換えていませんか?

2018年03月02日

ベロニカとの記憶

©2016 UPSTREAM DISTRIBUTION, LLC

【出演】ジム・ブロードベント、シャーロット・ランプリング、ミシェル・ドッカリー、ハリエット・ウォルター、エミリー・モーティマー ほか
【監督】リテーシュ・バトラ

自分の人生を振り返ることで、新たな一歩を踏み出せる

 ライカの中古専門店を営む老境のトニー(ジム・ブロードベント)の元に、一通の手紙が届く。それは学生時代に交際していたベロニカ(シャーロット・ランプリング)の母が、遺言で彼に日記を残しているとの内容であった。40年前の記憶を、彼は元妻のマーガレットに楽しそうに語るのであったが、事実は全く違っていたのである。
 多くの人は、辛い経験をマイルドにさせ、都合のいい出来事だけを繋ぎ合わせ、いわば過去を捏造して記憶している。傷付けた側は忘れるか蓋をしているが、傷付けられた側は、一生のトラウマになっているかもしれない。主人公トニーが甘く美しいと思っていたベロニカとの初恋も、1つ1つ記憶の扉が開けられる度に、彼が残酷で恥ずべき行為をしていた事が暴露されていく。親友だったエイドリアンの自殺の真相を解明していく後半はスリリングな展開で、思いもつかない驚愕の事実が示されるラストに至るまで、巧みな仕掛けと絶妙な演技で我々を飽きさせない。
 自殺に至ったヒントはある。高校の歴史の授業で、歴史とは?の議論で、トニーは「勝者の嘘の塊」、先生は「敗者の自己欺瞞」、エイドリアンは「何かが起こったとしか言えない」と言っている。ここからは「エイドリアンが自殺した」という事実があるのみで、解釈は生きてるものが都合よく考えるものだという答えが導き出せる。 
 役者では若手のイケメン俳優も注目だが、やはりジム・ブロードベントとシャーロット・ランプリングが醸し出す空気感が最高である。特に『愛の嵐』で上半身裸にサスペンダーだけの衣装で鮮烈なイメージだったランプリングの凛とした存在感には圧倒される。
 バトラ監督は「自分の記憶は塗り替えられているかもしれない。もしかしたら、別の真実があるかもしれない。それを知ることで自分の人生を振り返り、新たな一歩を踏み出せるのだ」という事を我々に示している。判りやすくて深い映画だ。

『ベロニカとの記憶』は岐阜CINEXで3/3(土)より公開予定。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (8)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る