岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

アキ・カウリスマキ監督が示した難民問題の答えとは

2018年03月01日

希望のかなた

© SPUTNIK OY, 2017

【出演】シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン
【監督・脚本】アキ・カウリスマキ

無声映画に近い作風は国境を越えて伝わっていく

 社会の片隅で慎ましやかに生きる市井の人たち。無表情でほぼ笑う事のない登場人物が、世の中の理不尽さに決して感情をあらわにすることなく、淡々とやりすごしていく。それは難民を受け入れる事でもいささかも変わらない。重苦しい難民問題でも、アキ・カウリスマキ監督のゆるい空気感の中に苦笑を織り交ぜたポエムのような技法にかかると、ただ弱い立場の者が困っている他人を助けるのだという、すこぶる単純で明快な答えに違和感なく納得できる。
 社会的弱者に対する優しい眼差しはいつも通りで、ホームレスや障害者たちが貧しいながらも寄付をしたり、差別や暴力に抵抗するシーンを見ると、善意の人々の温もりを感じられて心が温まる。一攫千金のお金でレストランを経営する事になったオーナーが難民を受け入れるのも、同情でなく労働力であり、恩着せがましさがなく気持ちがいい。排外主義者たちから難民を守る市民たちの描写も、「暴力反対」という差別区別を乗り越えた純粋な感情で描かれ、説教臭さがない。
 もちろんユーモアあふれるシーンも手抜かりがなく、特に日本料理店でのお寿司のシーンのすっとぼけた演出は、異文化を笑い飛ばしながら受け入れていてテーマにも沿っており、日本の食文化を知る観客には答えられないシーンとなっている。
 少ない台詞と、パントマイムのような仕草や些細な表情での表現、短めの上映時間など無声映画に近い彼の作風は、言語を越えて理解される特質をもっている。難民の受け入れは異文化の理解と許容であり、彼の映画同様、国境を越えて考えていく事柄だ。多様性を拒否し純化路線がはびこっている最近の状況に関し、カウリスマキが強い危機感をもって作った映画だと思うが、自分のスタイルから全くぶれていないからこそ傑作となりえたのだ。2017年キネマ旬報ベスト・テン外国映画第7位、作られるべくして作られた映画である。

『希望のかなた』は全国で公開中、岐阜CINEXで3/3(土)より公開予定。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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