岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

忌々しい "シン恋愛映画" の傑作

2022年06月29日

わたし達はおとな

©2022「わたし達はおとな」製作委員会

【出演】木竜麻生、藤原季節、菅野莉央、清水くるみ、森田想/桜田通、山崎紘菜、片岡礼子、石田ひかり、佐戸井けん太
【監督・脚本】加藤拓也

演劇的空間を映画時間と融合させた巧妙な仕掛け

嘔吐する女性がいる。便器に顔を突っ込むようにして苦しげに見える。一呼吸ついてベッドまでたどり着く。そこには一緒暮らす男性がいて、風邪による発熱を心配する。同棲中のカップル。

大学でデザインを学んでいる優実(木竜麻生)は、仲間たちと顔を合わせれば、「近ごろ、どう?」とか、気になっている男の話とか、一度振ったのにあいかわらず言い寄ってくる男の話とか…男の話とか、身の回りの出来事の関心事と言えば、限定的なものになってしまう。そんな時、知り合いの劇団の公演用のチラシのデザインをしてみないかと誘いを受ける。その打合わせで出会うのが演劇サークルの幹部のひとり直哉(藤原季節)で、ふたりはごく自然に惹かれ合うようになり、交際の密度も次第に濃くなっていく…冒頭の同棲中のカップル、優実と直哉の出会いをカットバック(回想)で見せる恋愛映画かと思いきや、物語の構成はもう少し複雑で、現在=現状、そこでのいくつかのやり取りを見せ、そこに至る経緯を匂わせておいてから、回想で見せるという方法をとっているが、これには巧妙な仕掛けがあった。

監督は「劇団た組」の劇作家、演出家で主宰の加藤拓也で、本作が映画監督デビュー作となる。オリジナルの脚本も自らが手がけている。女子大生たちの会話には、ならではの技が見える。そして、冒頭の嘔吐が妊娠によるツワリが原因とわかってから、徐々に激しさを増す優実と直哉の痴話喧嘩は強烈。

『わたし達はおとな』は、外見は青春恋愛映画だが、中身は際どい領域にまで入り込む。それは性的な倫理観だったり、男性性のエゴだったりすることもあり、不快とか嫌悪に感情を揺さぶられることになる。

映像の世界では時系列は自由に操れる。過去に遡ることも、それをある1日に限定したりすることも可能だったりする。本作はそう言う意味で言えば、難解と形容できるほどの変化球だと言える。

切れ切れになる時間が適度な間となり、拒絶反応を起こすほどに揺さぶられていた感情が一瞬覚める。その瞬間、嫌悪の対象は身に覚えのあるものの一線に触れてくる。この時差効果は仕掛けではないか?

役者が演じているものも、束の間、一線を超えリアルに迫ってくる映画体験。これも稀な事だと思う。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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