岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

心揺さぶるエマのダンスに見る女性讃歌

2018年02月22日

花咲くころ

©Indiz Film UG, Polare Film LLC, Arizona Productions 2013

【出演】リカ・バブルアニ、マリアム・ボケリア、ズラブ・ゴガラゼ、ダタ・ザカレイシュヴィリ
【監督】ナナ・エクフティミシュヴィリ、ジモン・グロス

ドキュメンタリーと見まがうカメラーワークがリアル

 大相撲初場所で平幕優勝を果たした栃ノ心の故郷ジョージア(旧名グルジア)から、政情不安の中でも強くたくましく生きる少女たちの、清廉闊達な姿を描いた瑞々しい映画がやってきた。ソ連から独立した翌年の1992年、花咲く頃の春。当時14歳だったナナ・エクフティミシュヴィリ監督の少女時代が反映されたこの映画は、エカとナティアの2人の友情と成長を軸に展開される。
 直接的な戦闘や内戦シーンは無いが、大人たちは常に言い争い怒鳴り合い、空気は殺伐として不穏な空気が漂っている。少年少女の世界でもいじめに喧嘩に悪戯に大人顔負けのモラルのなさだ。戦乱が人々の心を荒ませ些細なことで暴発していく様を、ドキュメンタリーと見まごうカメラワークでリアルに描いている。
 しかしそんな環境下でも、エカやナティカたちは、友達と楽しく過ごしたり、男の子に胸をときめかせたりしながら、口うるさい親や不安定な世間の事を忘れられることができている。手持ち主体のカメラは、そんな少女たちに寄り添うように長回しで生き生きと捉えていて効果的だ。
 この映画には雨がよく出てくる。突然の雨に、服も髪も教科書もビショビショになってしまう。だが雨に濡れた少女たちの何と美しい事よ。世間の乾いた空気を一瞬にして変えてくれ、豊饒な農作物を実らせてくれる雨は、むしろ彼女たちを輝かせてくれるようだ。
 ひょんなことから拳銃を手に入れたナディアがその銃を使いそうになった時、エマはそれを池に投げ捨てる。「武器を捨てる」事で憎しみが殺りくに繋がらず、許しの機会が与えられたというメタファーになっている。
 最も感動的なシーンは、略奪婚だったナティアの結婚式で、エマがダンスを踊るところだ。本来は男性の踊りだが、女性らしいしなやかさで観客の心を揺さぶる。女性監督ならではの(ドイツ人の夫との共同監督だが)、女性讃歌が感じられる名シーン。逞しい映画である。

『花咲くころ』は岐阜CINEXで3/2(金)まで公開中。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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