岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ケネス・ブラナーの故郷愛に溢れた物語

2022年05月17日

ベルファスト

Ⓒ2021 Focus Features, LLC.

【出演】カトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチ、ジェイミー・ドーナン、キアラン・ハインズ、ジュード・ヒル
【監督・製作・脚本】ケネス・ブラナー

今も世界のどこかで分断と対立があることを忘れないために

ベルファスト、イギリス・北アイルランドの首府。市内を流れるファーセット川とラガン川が注ぐ河口に位置する港町。巨大な造船所のクレーン状の建造物が林立する。俯瞰だったカメラアイがゆっくりと降り、モノクロの画面に変わる。

9歳のバディは日常の中にいた…夕方の住宅街。子どもたちの嬌声が聞こえる。そこに夕食を告げる親たちの声が重なる。子どもたちの群れが、それぞれの家へ向かい、散り散りになる…と、その平和な日常を破る異音に辺りは支配されていく。突然、目の前に広がる光景。一体、何が起きているのか? 呆然とするバディ。

時は、1969年8月15日。プロテスタントの武装集団がカトリック住民に攻撃を始めた。何の隔たりもなかった平和な街が一変した。

映画で北アイルランド、ベルファストといった地域で思い浮かぶのは、"IRA" の存在かもしれない。そこに登場するのは、暴力的な武装集団で、非常なテロリストというイメージが固定化した。

IRAはイギリスからの分離独立を目指したアイルランド共和国軍のことを指すが、その歴史は古くルーツは19世紀半ばまで遡る。

第二次世界大戦後のIRAの活動を象徴するのが1969年で、地域住民間の分断と武装衝突、所謂、"北アイルランド問題" の激化した時期と重なる。

『ベルファスト』には、そういう、歴史的、宗教的な背景があるのだが、物語の中心は、あくまでも家族の問題である。

母さん(カトリーナ・バルフ)と父さん(ジェイミー・ドーナン)は、お金の問題で揉めている。税金の滞納とか、父さんのロンドンへの出稼ぎとか…でも、バディ(ジュード・ヒル)には、よく分からない。母さんや父さんの哀しい顔は見なくはないけれど…。近くにいるじいちゃん(キアラン・ハインズ)や、ばあちゃん(ジュディ・デンチ)は、飛びっきり優しい。暗い世相でも笑顔とユーモアを絶やすことない人々の姿が清々しく描かれている。

映画は、監督、脚本のケネス・ブラナーのパーソナル性が高いが、その根底にある分断と対立の構図は、現在も世界中に存在する。去る人、残る人、命を落とした人。そこに目を向けることを忘れない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (12)
  • 検討する (0)

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

ページトップへ戻る