岐阜新聞 映画部

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人それぞれ様々な解釈ができる優れた社会派映画

2022年05月10日

ニトラム/NITRAM

© 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

【出演】ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジュディ・デイヴィス、エッシー・デイヴィス、ショーン・キーナン ほか
【監督】ジャスティン・カーゼル

ニトラムは広汎性発達障害、社会から孤立させないこと

1996年に起こったオーストラリア史上最悪の銃乱射事件。こういった凶悪犯を主人公にした映画は、犯人に過度な寄り添いをしたり社会の犠牲者として被害的に描いてしまうのは禁物であるし、逆に単なるモンスターとして扱ってしまっては何の教訓も見出せない。

私の見る限り本作のジャスティン・カーゼル監督は、ニトラムとその家族や周辺人物の言動や行動を慎重に客観的に描いており、登場人物に対するあからさまな共感や感情的な嫌悪を排除し事実のみをもって問題提起をしていると思う。

私が映画から読み取れたこと。

まずニトラムは広汎性発達障害であるということ。彼を演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、こだわりの強さ、空気を読まない行動、結果を想像できない場違いな行為など彼のアスペルガー症候群の傾向をリアルに演じていて見事である。そして知的にはボーダー、さらに反社会性パーソナリティ障害の可能性が高いといえる。

これらが早くに診断されていれば、カウンセリングや投薬等で事件を起こすに至らなかったかもしれない。

次に父と母だ。父親は夢だった民宿経営を簡単に裏切られてただ泣くだけの性格。ニトラムに対して理解しようと努めているが、社会的には無能力者だと見なされてしまう。父性への失望感。

そして強い母親の存在。ニトラムに対して支配的で彼の特性を理解せず社会的不適合者と決めつけている。彼には絶望感しか与えない毒親。

唯一の理解者は富豪のヘレンだ。彼女はニトラムの全てを受け入れてくれる。縦でも横でもない斜めの関係性は適度な距離感を保ち、実は一番ココロを許せたりする。しかしニトラムがヘレンの気を引こうと面白がってやった行為で彼女が死んでしまい結果的に理解者がいなくなる。

簡単に結論は出ないが少なくとも社会から孤立させない事は答えのひとつである。

人それぞれ様々な解釈ができるであろう優れた社会派映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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