岐阜新聞 映画部

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死刑制度の罪と冤罪の闇を問う社会派映画

2022年04月26日

白い牛のバラッド

【出演】マリヤム・モガッダム、アリレザ・サニファル、プーリア・ラヒミサム
【監督】マリヤム・モガッダム、ベタシュ・サナイハ

生贄としての牛 その白は無垢の象徴

死刑に関する報道は、忘れた頃にやって来る。それは死刑執行を伝えるものだったりするのだが、その時、死刑制度に関する議論が、再燃したりする。

死刑制度は昨今、国外では廃止の流れが鮮明になる傾向にある。しかし、国内の世論調査結果では、8割が「やむを得ない」という容認の回答をしている。

アメリカでは廃止の議論があるものの、政権交代や州ごとの事情で、温度差が発生している。

イランはイスラム法に基づく厳しい死刑制度を維持している国で、死刑執行数は中国に次ぐ世界第2位である。

イラン・テヘランの牛乳工場に勤めるミナ(マリヤム・モガッダム)はシングルマザー。1年ほど前、殺人罪で裁かれた夫は死刑に処されていた。聴覚障害で口のきけない娘のビタが心の支えとなっているが、夫を失った哀しみからも立ち直れないまま、漠然とした不安にかられる不安定な日々を送っていた。

そして、突然、夫の無罪が明らかになる。賠償金が支給されようが、ミナが求めるのは誤った判決をした判事の謝罪だったが、それは頑なに拒否された。

ある日、夫の古い友人と名乗る男レザ(アリレザ・サニファル)が現れ、借金の返済だと言って、ミナに金を渡していく。

大家からあらぬ疑いをかけられ、借家を追い出されることになってしまった後も、レザはミナ親娘を親身になって世話をしてくれる。ミナもそんなレザに次第に心を開いていくのだった。

監督、脚本はペタシュ・サナイハと、ミナを演じたマリヤム・モガッダムで、本作は2度目の共同となる。

イランの厳罰的な法制度と、司法制度の裏側にある理不尽なシステムに警鐘を鳴らし、女性蔑視の男性至上主義の社会構造をあぶり出し、不条理極まりない世間で闘う女性の姿を静かに力強い描いている。

本国イランでは、上映禁止の処分を受けているのだから、この告発には社会を揺るがす意味が込められているという証だろう。

終盤のミナとレザの関係の高まりは、やや平板な進行という印象だが、イスラム社会においても立ち上がる女性の姿は勇しく清々しい。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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