岐阜新聞 映画部

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死刑大国イランでおこる冤罪という不条理、果たしてミナの選択は?

2022年04月26日

白い牛のバラッド

【出演】マリヤム・モガッダム、アリレザ・サニファル、プーリア・ラヒミサム
【監督】マリヤム・モガッダム、ベタシュ・サナイハ

「目には目を」と復讐するのか、「仇を恩で報ずる」と赦すのか

アムネスティが発表した2020年の死刑執行数は、情報を入手できなかった中国・北朝鮮・ベトナムを除きイランが最多の246人。「目には目を」というイスラム法により殺人遺族は加害者に死刑を求めることができる反面、賠償金を受け取って罪を赦し死刑執行を免除することができるらしい。2020年はその数662人。人の命が国家や宗教によってもてあそばれているようにしか見えない。

本作はそんな死刑大国イランで夫を冤罪によって処刑されたミナ(マリヤム・モガッダム)が、国家から謝罪もなく賠償金の支払いのみですまそうという不条理に対し、「目には目を」と復讐するのか「仇を恩で報ずる」と赦すのか、イランのみならず世界に向けて問うた社会派映画である。

イスラム教の戒律の深いところはわからないが、すべては「神のご意志」として為政者が都合よく解釈し誤りをも正当化しているように見える。夫に死刑判決を下したのは神のご意志であり判事に責任は無いのだと。

女性差別も顕著であり、シングルマザーのミナの働き口は薄給のミルク工場で、耳の聞こえない娘との生活は苦しい。なかなか支払われない賠償金を狙って義父や義弟はまとわりいてくる。

そんなところへ夫ババクの旧友だというレザと名乗る男(アリレザ・サニファル)が現れる。ババクから借りていたというお金を返してくれるし住む家も斡旋してくれる。さてこの男の正体は?そしてミナはどう決断を下すのか?というお話だ。

映画はイラン社会の生きづらさをギリギリの描写で描いていく。直接的な表現でなく、例えばミナが夢で見る「白い牛」はイスラム教の儀式での生贄であり冤罪で殺された夫のメタファー、聾唖者の娘は物言えぬ女性の立場を表している。

イラン映画の奥行きの深さや表現の巧みさには目を見張るものがある。キアロスタミやファルハディらに続き新しい才能がイランの現実を描出する。目が離せない国だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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