理想と現実の狭間で揺れる幻想国家ソ連の物語
2022年04月18日
親愛なる同志たちへ
©Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020
【出演】ユリア・ビソツカヤ、アンドレイ・グセフ
【監督・脚本】アンドレイ・コンチャロフスキー
黒白スタンダードの画面から浮かび上がるリアル
映画の舞台となるノボチェルカックスは、ロシア南部のロストフ州にある都市で、かつてはロシア帝国内で自治を認められていた "ドン・コサック" の首都だった。第二次対戦中にはナチス・ドイツ軍によって、半年間ではあるが、占領されたこともある。多くの工場がある産業都市として、また、大学の研究機関を有するアカデミックな都市でもある。
時は1962年。当時の政治的な背景は、1953年のスターリン死去にともない、ソビエト共産党第一書記に就任したフルシチョフによる政権に綻びが見えはじめていた。60年代前半に導入された経済・貨幣改革は、物価の上昇と食料不足という悪循環をまねき、それは国中に広がりはじめた。そして6月1日、町の機関車工場で労働者によるストライキが勃発する。
労働者が行動に出た直接要因は、給与カットだったとされているが、その裏には生活の困窮という、社会主義国家には、あってはならない生活の基本的な安定を脅かす危機感があったのに他ならない。
冒頭、その日の朝。リューダ(ユリア・ビソツカヤ)は、一夜をともにした、市政委員会と同僚で恋人のロギノフ(ウラジスラフ・コマロフ)の家を後にする。まず立ち寄るのは食料品店。店の入口には生活物資の不足と価格高騰に悲鳴を上げる客たちでごった返している。が、リューダは顔馴染みの女店員から優先的にタバコや缶詰を譲り受ける。
帰宅した家には年老いた父親と、女手ひとつで育ててきた18歳の娘スヴェッカがいるが、母娘の仲は良好とは言えない雰囲気がある。
その後、出席した定例の市政委員会の会議の最中、ストライキ発生の報が入り、事態は一変する。
翌2日、市民を巻き込んだあってはならない騒乱の場は、銃撃という暴力によって鎮圧される。
ソ連崩壊後1992年まで国家によって隠蔽された事件を描いてはいるが、これは新たな告発ではない。
リューダのスターリン時代への憧憬や、役得を平然と受け入れる行為は、姑息な全体主義への告発かも知れないし、ロシア人が今も抱くソビエト連邦時代の良き幻影への警鐘の意味とも取れるが、それならば、終盤、銃撃の首謀者KGBの所属員ヴィクトルがリューダに擦り寄るのには違和感を感じる。これはKGB出身の権力者に尻尾を振る行為ではないか?
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。